シーン7 王太子の立場
舞踏ホールは静かだった。
レティシアの言葉。
「断罪は無効です」
その結論は、
誰も否定できないものだった。
証拠はない。
告発文は偽造。
証言も崩壊。
論理は完全だった。
貴族たちは互いに顔を見合わせる。
誰も声を上げない。
その沈黙の中心にいるのは、
王太子アルフォンスだった。
彼は動かない。
動けない。
レティシアの言葉は、
王太子を責めるものではなかった。
謝罪を要求もしない。
責任を追及もしない。
ただ、
事実を整理しただけ。
それだけだった。
だが。
それが逆に、
アルフォンスを追い詰めていた。
もし彼女が怒りをぶつけたなら。
抗議したなら。
それに対して言い返すこともできたかもしれない。
だが、
レティシアはそうしない。
彼女は冷静だった。
そして、
品位を保っている。
その姿が、
逆に王太子の判断の軽率さを浮き彫りにしていた。
貴族たちは何も言わない。
だが、
その視線は確実にアルフォンスへ向いている。
評価の視線。
見極める視線。
次期国王としての資質を、
静かに測る視線だった。
アルフォンスの喉が動く。
何か言うべきだ。
そう思う。
しかし、
言葉が見つからない。
謝罪すべきか。
否定すべきか。
それとも、
沈黙を守るべきか。
どの選択も、
王太子の威厳を守るものではなかった。
舞踏ホールの中央で、
アルフォンスは立ち尽くす。
そして今、
誰もが感じていた。
レティシアが何も責めないことが、
何よりも――
王太子の立場を苦しくしていることを。




