シーン5 ただし条件
舞踏ホールのざわめきは、まだ収まっていなかった。
「婚約破棄は構いません」
その言葉が、
貴族たちの頭の中で何度も繰り返されている。
公爵家の令嬢。
しかも無実が証明されたばかり。
それなのに、
抗議もしない。
責任も問わない。
その態度はあまりにも予想外だった。
誰もが次の言葉を待っている。
その沈黙の中で、
レティシアが再び口を開いた。
「ですが」
その一言で、
舞踏ホールの空気が引き締まる。
貴族たちの背筋が伸びる。
来る。
何かが来る。
誰もがそう感じていた。
レティシアは静かに王太子を見つめた。
その視線は冷静だった。
責めるような色はない。
ただ、
事実を確認するような目。
そして、
はっきりと言った。
「罪はありません」
沈黙。
完全な沈黙だった。
レティシアは続ける。
「先ほど示された通り」
「証拠は存在しません」
「証言も崩れました」
彼女の声は落ち着いている。
一つ一つ、
事実を積み上げるように話す。
「つまり」
わずかな間。
その結論は明確だった。
「私に罪はありません」
宣言。
それは静かな言葉だった。
だが、
舞踏ホールの誰もが理解した。
これは要求ではない。
事実の確定。
ざわめきがゆっくり広がる。
「確かに……」
「その通りだ」
「証拠はなかった」
貴族たちが頷き始める。
レティシアは婚約破棄を受け入れた。
だが。
その代わり、
一つだけ確定させた。
自分の無罪。
それは社交界において、
何より重要なことだった。




