シーン4 社交界の驚き
舞踏ホールの空気が揺れていた。
レティシアの言葉。
「婚約破棄は構いません」
その一言は、
社交界の常識を大きく外れていた。
ざわめきが広がる。
貴族たちが顔を見合わせる。
「怒らないのか?」
誰かが小さく呟く。
「公爵家の令嬢だぞ」
別の貴族が言う。
「しかも無実だ」
「普通なら抗議する」
さらに声が重なる。
「責任を問うはずだ」
「王太子に謝罪を求めてもおかしくない」
だが。
レティシアは、
何も要求しない。
怒りも見せない。
ただ静かに立っている。
その姿が、
逆に周囲を困惑させていた。
令嬢たちの間でも囁きが広がる。
「信じられない」
「私なら怒るわ」
「むしろ当然よ」
貴族社会では、
名誉が何よりも重い。
それを公の場で傷つけられた。
それなのに、
彼女は争わない。
その態度は、
理解しがたいものだった。
そして。
一人の人物が、
驚いた顔をしていた。
セシリア・アルヴェルン。
レティシアの姉。
彼女は妹を見つめている。
ほんの少し前まで、
怒りで震えていた彼女。
しかし今、
その表情には別の感情が浮かんでいた。
驚き。
そして、
戸惑い。
「レティシア……」
小さく名前を呼ぶ。
だが、
レティシアは振り向かない。
彼女はただ、
王太子アルフォンスを見ていた。
その表情は変わらない。
落ち着いた微笑。
静かな目。
まるで最初から、
この結末を知っていたかのように。




