シーン3 婚約破棄の受諾
舞踏ホールの空気は、まだ張り詰めたままだった。
レティシアが追及を止めたことで、
場は一度落ち着いた。
しかし。
まだ終わっていない問題が一つある。
婚約破棄。
この舞踏会の始まりとなった出来事。
貴族たちは気づき始めていた。
断罪は崩れた。
証拠はなかった。
だが――
婚約破棄の宣言自体は、
まだ撤回されていない。
視線が自然と動く。
レティシア。
そして、
王太子アルフォンスへ。
沈黙。
その中で、
レティシアがゆっくりと顔を上げた。
そして、
王太子をまっすぐ見つめる。
「殿下」
静かな声。
アルフォンスの肩がわずかに動く。
彼は視線を上げた。
二人の視線が、
舞踏ホールの中央で交わる。
しばらく沈黙が続いた。
やがて。
レティシアが口を開く。
「婚約破棄は」
短い間。
その言葉の意味を、
貴族たちは一瞬理解できなかった。
そして。
「構いません」
ざわっ――
舞踏ホールが揺れた。
「何だって?」
「今、何と言った?」
「受け入れたのか?」
貴族たちがざわめく。
完全に予想外だった。
公爵家の令嬢。
しかも、
無実が証明されたばかりの人物。
普通なら。
抗議する。
責任を問う。
王太子の失態を追及する。
だが、
レティシアはそれをしない。
彼女はただ静かに立っている。
まるで、
最初からその結論を決めていたかのように。




