第8章 静かな逆転 シーン1 リリアの沈黙
舞踏ホールは、凍りついたように静まり返っていた。
レティシアの言葉。
「次はあなたです」
その一言が、まだ空気の中に残っている。
視線が動いた。
貴族たちの視線。
令嬢たちの視線。
騎士たちの視線。
すべてが、ゆっくりと一つの人物へ集まっていく。
リリア・フェイン。
王太子の後ろに立つ、
平民の少女。
さきほどまで、
彼女は守られる存在だった。
断罪劇の被害者。
涙を流す少女。
だが今、
その立場は変わっていた。
疑問の視線。
疑念の視線。
評価する視線。
すべてが彼女へ向けられている。
リリアの肩が震えた。
小さく息を吸う。
しかし、
言葉が出ない。
唇が動く。
けれど、
声にならない。
「……」
沈黙。
その沈黙は、
あまりにも長く感じられた。
貴族たちが小さくざわめく。
「答えないのか……」
「被害者なら言えるはずだ」
「なぜ黙る?」
疑念が、ゆっくりと広がっていく。
リリアは俯いたまま、
拳を握っていた。
その指先は白くなっている。
そして。
王太子アルフォンス。
彼もまた、
何も言えなかった。
ほんの少し前なら、
違っただろう。
彼は前に立ち、
彼女を守ったはずだ。
だが今は違う。
証言は崩れた。
証拠も否定された。
そして告発文は偽造。
そのすべてが明らかになった今、
彼は動けない。
リリアを庇う言葉が、
見つからない。
舞踏ホールには、
ただ沈黙だけが広がっていた。
その中央で、
レティシアだけが静かに立っている。




