シーン7 噂
ワルツが終わりに近づき、旋律がゆっくりと落ち着いていく。
アルフォンスが軽く礼をすると、レティシアも優雅にスカートの裾をつまみ、礼を返した。
拍手が起こる。
王太子と婚約者のダンス。
社交界において、それは儀礼のようなものだ。
だがその拍手も、どこか表面的だった。
レティシアはアルフォンスと別れ、静かに舞踏ホールの端へ歩く。
その途中で、ふと耳に入った声があった。
若い令嬢たちの会話だ。
扇子で口元を隠しながら、楽しそうに囁き合っている。
「聞いた?」
ひそひそとした声。
別の令嬢が、興味津々といった様子で身を乗り出す。
「ええ、もちろん。今日らしいわよ」
「本当?」
「ついに――」
ほんの少しの間。
言葉が区切られる。
そして、小さく笑いながら告げられた。
「断罪」
その言葉が、空気の中に落ちた。
レティシアの足が、一瞬だけ止まる。
だが次の瞬間には、何事もなかったかのように歩き続けていた。
令嬢たちは、彼女に気づいていない。
むしろ気づいていたとしても、気にしなかったのかもしれない。
「やっとなのね」
「王太子殿下も我慢していたのよ」
「平民のあの子、可哀想だったもの」
くすくすと笑う声。
興奮したような囁き。
まるで劇の幕開けを待つ観客のようだった。
レティシアは静かにグラスを手に取り、果実酒を少しだけ口に含む。
甘い香りが広がる。
その間にも、令嬢たちの噂話は続いていた。
「公開でやるらしいわよ」
「まあ、舞踏会で?」
「そりゃそうでしょう。皆が見ているところでないと意味がないもの」
レティシアはグラスを軽く傾けながら、窓の外へ視線を向けた。
夜空は静かだった。
しかし舞踏ホールの中では、別の嵐が近づいている。
――断罪。
その言葉を、彼女はもう一度心の中で繰り返す。
驚きはない。
怒りもない。
ただ、状況がはっきりしただけだ。
なるほど。
どうやら今夜の舞踏会は、
ただの社交の場ではないらしい。




