シーン7 セシリアの怒り
舞踏ホールの空気は、まだざわめいていた。
証言の崩壊。
噂の正体。
そして取り巻きたちの失態。
だが、
そのざわめきが――
突然、止まる。
一人の令嬢が
静かに前へ出たからだ。
高く結い上げた銀髪。
整った気品ある顔立ち。
そして、
誰もが知っている名門の紋章。
セシリア・アルヴェルン。
公爵家の長女。
レティシアの姉。
社交界でも有名な人物だった。
彼女はゆっくりと歩み出る。
その足取りは優雅。
だが、
周囲の者は気づいていた。
彼女の肩が、
わずかに震えていることに。
怒りだった。
抑え込まれた怒り。
舞踏ホールの中央で、
セシリアは立ち止まる。
そして視線を上げた。
その視線の先には――
王太子アルフォンス。
カイル。
レオン。
マリア。
断罪劇を作り上げた者たち。
セシリアの唇がゆっくりと開く。
声は低い。
だが、
はっきりと響いた。
「妹を」
一瞬の沈黙。
その声には、
抑えきれない感情が込められていた。
「罪人扱いしたのですね」
舞踏ホールの空気が凍る。
誰も動かない。
誰も声を出さない。
ただ、
その言葉だけが響いていた。
アルヴェルン公爵家。
王国でも指折りの大貴族。
その長女が、
怒りを露わにしている。
それが何を意味するのか。
社交界の人間なら、
誰でも理解していた。
これは単なる令嬢の抗議ではない。
公爵家の怒り。
カイルの顔が青くなる。
レオンも息を呑んだ。
マリアは完全に俯いている。
そして。
王太子アルフォンスでさえ、
言葉を失っていた。




