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シーン6 貴族社会の冷たい視線
舞踏ホールに流れる空気が、
はっきりと変わっていた。
ほんの少し前まで――
すべての視線はレティシアへ向けられていた。
疑い。
軽蔑。
そして断罪。
しかし今。
その視線は別の方向へ向いている。
カイル。
レオン。
そしてマリア。
断罪劇を支えていた取り巻きたちへ。
貴族たちの表情は冷たい。
先ほどまでの熱気はない。
代わりにあるのは、
静かな評価だった。
社交界の令息が低く言う。
「軽率だな」
別の貴族が腕を組む。
「証拠も確認せず」
「証言だけで断罪とは」
年配の伯爵が小さく首を振った。
「貴族として恥だ」
その言葉は大きくはない。
だが、
静まり返ったホールではよく響いた。
さらに別の声。
「噂をそのまま信じたのか」
「判断力がない」
「社交界では致命的だ」
視線が刺さる。
冷たい視線。
評価する視線。
社交界において、
それは刃のようなものだった。
カイルは顔を赤くして俯く。
レオンも視線を落とした。
騎士としての誇りが傷ついている。
マリアはもう言葉も出ない。
肩を震わせながら立っている。
誰一人、
取り巻きを庇う者はいない。
舞踏ホールの中央では、
レティシアが静かに立っている。
そして今、
彼女を疑う視線は――
もうどこにもなかった。




