シーン4 カイルの崩壊
舞踏ホールの視線は、次の人物へと移り始めていた。
令嬢マリア。
その名が断罪劇の起点だと明らかになった今、
人々の疑問は自然と別の場所へ向かう。
証言者たち。
その一人。
侯爵子息カイル。
彼はさきほどまで堂々と前に立ち、
自信満々に言ったはずだった。
――暴言を聞いた。
だが今、
その顔には余裕の欠片もない。
額には汗。
視線は泳ぎ、
足元が落ち着かない。
貴族の一人が声を上げた。
「カイル」
鋭い声。
「お前は“目撃した”と言ったな?」
舞踏ホールが静まり返る。
すべての視線がカイルへ集まる。
彼は喉を鳴らした。
「そ、それは……」
言葉が続かない。
さきほどの自信はどこにもない。
その沈黙を破ったのは、
レティシアだった。
彼女はゆっくりとカイルを見た。
責めるような視線ではない。
ただ、
事実を確認するような静かな視線。
「カイル様」
落ち着いた声。
「あなたは言いました」
「私が“平民は土に帰れ”と言ったと」
カイルの肩がびくりと揺れる。
レティシアは続けた。
「ですが」
わずかな間。
「その場に他の目撃者はいません」
舞踏ホールの空気が張り詰める。
そして、
レティシアは静かに言った。
「つまり」
「あなたは」
一歩だけ前へ出る。
「噂を聞いただけですね?」
沈黙。
完全な沈黙だった。
カイルの顔が赤くなる。
口を開こうとする。
だが、
言葉が出てこない。
それが答えだった。
ざわめきが広がる。
「やはり……」
「聞いただけか」
「目撃ではない」
貴族の一人が冷たく言った。
「それは証言ではない」
別の貴族が頷く。
「ただの噂だ」
空気が一瞬で変わる。
先ほどまで堂々と証言していた男。
しかし今、
彼はただの噂の伝達者だった。
カイルの頬がさらに赤くなる。
恥。
屈辱。
視線が痛い。
社交界の冷たい視線が、
彼へ突き刺さっていた。




