シーン3 噂の始まり
舞踏ホールの空気は、完全に変わっていた。
先ほどまで断罪の中心にいたのはレティシア。
しかし今、
その視線はすべて――
令嬢マリアへと向けられている。
マリアは椅子の背に手をつき、かろうじて立っていた。
顔は青ざめ、
視線は床に落ちている。
その前で、
レティシアは静かに口を開いた。
「整理しましょう」
落ち着いた声。
感情はない。
ただ事実を並べるだけの声だった。
貴族たちが自然と耳を傾ける。
レティシアはゆっくりと言葉を続けた。
「まず」
「王太子殿下へ届いた告発文」
彼女は手紙を軽く掲げる。
「これはマリア様の筆跡でした」
ざわめきが小さく広がる。
レティシアは続けた。
「次に」
「学園内で広まった噂」
彼女の視線がマリアへ向く。
「その噂を最初に話した人物」
短い沈黙。
そして、
はっきりと言った。
「それもマリア様です」
舞踏ホールがざわつく。
レティシアは淡々と説明を続けた。
「噂はこうして広がります」
一本指を立てる。
「一人が話す」
二本目。
「それを聞いた者が別の人へ話す」
三本目。
「そして」
「それが“事実”のように扱われる」
貴族たちは静かに聞いている。
社交界の人間なら誰でも知っている構造。
噂の連鎖。
レティシアは続けた。
「今回も同じです」
「マリア様が噂を流す」
「それが広がる」
「そして」
彼女はゆっくりと周囲を見る。
カイル。
レオン。
取り巻きたち。
「“証言”が生まれる」
その言葉に、
空気が揺れた。
レティシアは静かに結論を言う。
「つまり」
短い沈黙。
「この断罪劇の起点は」
彼女の視線がマリアへ向く。
「マリア様です」
その瞬間、
舞踏ホールが騒然となった。
「つまり……」
貴族の一人が呟く。
「最初の情報は全部……」
別の貴族が言葉を続ける。
「噂?」
令嬢たちが顔を見合わせる。
「じゃあ」
「証言も……?」
さらにざわめきが広がる。
「全部噂だったのか」
「それを事実として断罪を……」
「王太子が?」
社交界が一気に騒ぎ始める。
疑念が連鎖する。
そしてその中心で、
マリアはただ震えていた。




