第7章 小ざまぁ シーン1 真犯人の名前
舞踏ホールは、針を落としても聞こえそうなほど静まり返っていた。
すべての視線が、中央に立つレティシアへと注がれている。
彼女の手には、一枚の紙。
すべての始まりとなった――
匿名の告発文。
レティシアはそれを静かに持ち上げた。
「この手紙」
落ち着いた声が、広いホールに響く。
誰も口を開かない。
ただ次の言葉を待っている。
レティシアは続けた。
「筆跡を調べました」
貴族たちの間に緊張が走る。
筆跡。
つまり、書いた人物が特定できるということ。
レティシアの視線がゆっくりと動く。
舞踏ホールに並ぶ貴族たちの顔を、
一人ずつ確かめるように。
やがて。
その視線が止まった。
ある一人の令嬢の前で。
扇子を握る手が、わずかに震えている。
レティシアは静かに言った。
「一致しました」
その言葉が落ちた瞬間。
貴族たちの視線が一斉に動く。
そして。
レティシアはその人物をまっすぐ見つめた。
「あなたです」
空気が凍りつく。
レティシアの視線の先。
そこに立っていたのは――
令嬢マリア。
「……え?」
小さな声が漏れる。
次の瞬間、
社交界がざわめいた。
「マリア……?」
「噂を広めていた令嬢じゃないか」
「まさか……」
マリアの顔から血の気が引いていく。
彼女は一歩後ろへ下がった。
「ち、違います……!」
震える声。
だが、言葉には力がない。
レティシアは感情を動かさない。
ただ静かに告発文を掲げた。
「王太子殿下へ届けられた匿名の告発文」
そして、
もう一枚の紙を取り出す。
学園に提出された書類。
筆跡見本。
レティシアはそれを並べた。
「筆跡鑑定の結果」
短い沈黙。
そして。
「この告発文は――」
レティシアの声が、静かに響く。
「マリア様」
「あなたの文字です」
その瞬間。
マリアの手から扇子が落ちた。
乾いた音が、
凍りついた舞踏ホールに響いた。




