シーン10
舞踏ホールは、奇妙な静けさに包まれていた。
さきほどまで続いていたざわめきが、
今は完全に止まっている。
誰もが息を潜めていた。
視線はすべて、
一人の人物に集まっている。
レティシア・アルヴェルン。
彼女は舞踏ホールの中央に立ち、
静かに一枚の紙を持っていた。
匿名の告発文。
すべての始まりとなった手紙。
レティシアはそれを軽く掲げる。
「この手紙」
静かな声。
しかし、
その声は不思議なほどよく響いた。
「筆跡を調べました」
貴族たちが息を呑む。
筆跡。
つまり――
書いた人物が分かるということ。
レティシアは続ける。
「学園の書庫には」
「筆跡見本が保管されています」
貴族たちの間に小さな衝撃が走る。
入学書類。
試験答案。
提出された書類。
貴族の子弟の文字は、
すべて記録として残る。
つまり、
照合は可能だった。
レティシアはゆっくりと紙を下ろした。
そして言う。
「一致しました」
沈黙。
その一言だけで、
舞踏ホールの空気が凍りつく。
誰も動かない。
誰も言葉を発しない。
ただ、
レティシアの次の言葉を待っている。
彼女はゆっくりと顔を上げた。
そして。
静かに視線を動かす。
一人。
また一人。
貴族たちの顔をなぞるように、
視線が流れていく。
その動きに、
人々の鼓動が早くなる。
やがて。
レティシアの視線が止まった。
ある人物の上で。
その人物の肩が、
わずかに震える。
レティシアはまっすぐ見つめた。
逃げ場はない。
そして、
静かに言った。
「あなたです」
その言葉が落ちた瞬間。
舞踏ホールの空気が、
完全に凍りついた。
誰もが、
その人物へ視線を向ける。
真犯人。
噂を生み、
断罪を作り上げた人物。
ついに――
その正体が暴かれる。
第6章 終了。




