シーン6 違和感
ワルツの旋律は続いている。
だがレティシアの意識は、すでにダンスから半分離れていた。
一歩、回る。
二歩、滑る。
足取りは完璧なまま。
表情も変わらない。
しかし彼女の思考は、静かに状況を整理していた。
――王太子の態度。
アルフォンスの手は、先ほどから微妙に硬い。
視線も落ち着かず、何度もホールの端へ向いている。
そこにいるのは――リリア。
平民の少女。
レティシアは再び周囲へ目を向ける。
――貴族の視線。
彼らは明らかにこちらを見ている。
だがそれは、王太子と婚約者のダンスを称える視線ではない。
どこか期待している。
これから何かが起こると、知っているかのような目。
さらに――
――空気。
舞踏会の中心は、本来なら王太子とその婚約者であるはずだ。
だが今夜、空気の中心にいるのは別の人物だった。
リリア・フェイン。
ホールの端にいる平民の少女。
彼女の周囲では、貴族男子たちが楽しそうに話している。
何人もの令嬢が、遠巻きに様子を見ている。
まるで舞踏会全体が、その少女を軸に回っているかのようだった。
……なるほど。
レティシアの思考は、冷静に結論へ近づく。
王太子の迷い。
周囲の期待。
そして、中心にいる平民の少女。
これらはバラバラの出来事ではない。
一本の線で繋がっている。
レティシアはゆっくりと息を吸い、アルフォンスの顔を見上げた。
王太子は気づいていない。
いや――
気づいていながら、目を合わせないのかもしれない。
レティシアの胸に、ひとつの可能性が浮かぶ。
そして、それはすぐに確信へ変わった。
すべての状況が、
たった一つの結論へと繋がっている。
今夜、この舞踏会で――
何かが起こる。
それも、自分に関わる出来事が。




