シーン9 貴族社会のざわめき
ざわめきは、もう抑えきれなかった。
最初は小さな声だった。
しかしそれは、波紋のように舞踏ホール全体へ広がっていく。
「つまり……」
一人の貴族が呟く。
「誰かが仕組んだのか?」
別の貴族が顔をしかめる。
「断罪を?」
その言葉が落ちた瞬間、
空気が大きく揺れた。
断罪。
それは本来、
罪が確定した者に与えられるもの。
しかし今、
この場で明らかになりつつあるのは――
罪が存在しない可能性だった。
もしそうなら。
この舞踏会で行われていることは、
正義ではない。
作られた裁判。
そして、
その中心にいるのは――
王太子。
ざわざわと、
貴族たちの会話が加速する。
「証言は誤認だった」
「証拠はない」
「告発文は匿名……」
「しかも筆跡は学園の人間」
結論は一つに近づいていく。
「誰かが」
「最初に嘘を流した」
貴族社会は噂に慣れている。
だからこそ分かる。
噂は自然に生まれることもある。
だが、
ここまで整った流れは不自然だ。
告発文。
証言。
被害者の涙。
そして公開断罪。
まるで――
最初から作られた舞台。
その理解が広がった瞬間、
舞踏ホールの視線がゆっくりと動き始めた。
王太子の周囲。
取り巻き。
証人たち。
侯爵子息カイル。
騎士家レオン。
令嬢マリア。
そして――
リリア・フェイン。
その名前を口にする者はいない。
だが、
疑念は確実に生まれていた。
カイルの額に汗が浮かぶ。
レオンの視線が泳ぐ。
マリアは扇子を強く握りしめていた。
彼らは気づいている。
今までの流れが、
逆転し始めていることに。
舞踏ホールの空気は、
完全に変わった。
ついさっきまで、
ここはレティシアを裁く場所だった。
しかし今は違う。
誰もが考え始めている。
誰がこの断罪を作ったのか。
そしてその時。
揺らぎ始めたのは、
一人の令嬢の評判ではない。
王太子アルフォンスの――
権威そのものだった。




