シーン7 真犯人の影
舞踏ホールのざわめきは、すぐには収まらなかった。
学園内部。
その言葉が重く響いている。
貴族たちは互いに顔を見合わせる。
「学園の人間……?」
「つまり学生か?」
「それとも教師?」
疑問が次々に浮かぶ。
その中心で、レティシアは静かに立っていた。
彼女はまだ誰の名前も出していない。
だが。
その沈黙自体が、
人々に考えさせていた。
レティシアはゆっくり口を開く。
「まだ」
「名前は出しません」
ざわめきが少し収まる。
貴族たちは続きを待つ。
レティシアは続けた。
「ですが」
「いくつか条件があります」
その言葉に、空気がまた張り詰める。
彼女は一本指を立てた。
「まず」
「学園の内部の人間」
当然の条件。
告発文の筆跡が学園のものだからだ。
二本目の指。
「そして」
「この噂を広めることができる人物」
貴族たちが頷く。
ただの学生では難しい。
噂を広めるには、
社交界へ影響力を持つ立場が必要だ。
そして。
レティシアは三本目の指を立てる。
「最後に」
ほんのわずかな間。
「王太子殿下に近い人物」
その言葉が落ちた瞬間、
舞踏ホールの空気が変わった。
ざわっ――
貴族たちの視線が一斉に動く。
王太子の近く。
つまり。
この場にいる人物。
あるいは、
王太子の取り巻き。
侯爵子息カイル。
騎士家レオン。
令嬢マリア。
そして――
リリア。
疑いが、
ゆっくりと広がっていく。
貴族の一人が小声で言う。
「まさか……」
別の貴族が続ける。
「この中に?」
令嬢たちも顔を見合わせる。
「噂を広めた人物……」
「王太子の近く……」
条件を当てはめるたびに、
候補は少なくなっていく。
レティシアはそれを静かに見ていた。
焦らない。
急がない。
ただ、
人々が自分で気付くのを待っている。
やがて。
舞踏ホールの視線が、
ゆっくりとある人物へ集まり始めた。
疑いは、
まだ確信ではない。
だが確実に、
この場の誰かへ向かい始めていた。




