シーン6 偽造の可能性
舞踏ホールの中央。
レティシアの手の中にある一枚の手紙。
それは、この騒動の始まり。
王太子へ届いた告発文。
「レティシアがリリアを虐めている」
その言葉が、
この断罪劇を動かした。
貴族たちはその紙を見つめている。
もしそれが真実なら。
もしそれが信頼できる告発なら。
王太子の判断は正しかったことになる。
しかし。
レティシアは静かに言った。
「問題は」
彼女は手紙を軽く持ち上げる。
「ここです」
ざわめきが止まる。
レティシアは文面を指でなぞる。
「この手紙」
「差出人がありません」
確かに。
普通の告発文には署名がある。
責任を持つ人物の名前。
だがこの手紙には、
それがない。
ただの匿名。
貴族の一人が言う。
「匿名の告発か……」
別の貴族。
「珍しくはない」
しかしレティシアは首を振った。
「さらに問題があります」
彼女の声は冷静だった。
「この手紙には」
「証拠が一つも書かれていません」
舞踏ホールが静まる。
確かにそうだった。
ただの文章。
「虐めている」
そう書いてあるだけ。
具体的な日時も、
場所も、
証人もない。
ただの主張。
レティシアは続けた。
「つまり」
「これは」
一拍。
「誰でも書けます」
ざわっ――
空気が揺れる。
それはつまり。
この告発文が、
偽造である可能性を示していた。
だがレティシアはそこで止まらない。
彼女はもう一度手紙を見る。
「そして」
静かな声。
「もう一つ」
その言葉に、
貴族たちが息を呑む。
レティシアは紙を持ち上げた。
「筆跡です」
貴族の何人かが眉をひそめる。
筆跡。
つまり。
書いた人物の癖。
レティシアはゆっくり言った。
「この筆跡」
一拍。
「見覚えがあります」
舞踏ホールがざわめく。
アルフォンスも顔を上げる。
「何だと……?」
レティシアは淡々と続けた。
「学園では」
「多くの書類が提出されます」
「レポート」
「試験答案」
「申請書」
彼女は紙を軽く叩いた。
「筆跡は」
「意外と変わらないものです」
そして。
静かに結論を言う。
「この筆跡」
視線がゆっくり動く。
会場のどこかへ。
「学園の」
「誰かのものです」
その瞬間。
舞踏ホールが大きくざわめいた。
「まさか……」
「学園の人間が?」
「つまり……」
貴族たちの頭に、
一つの可能性が浮かぶ。
この告発文は、
偶然の手紙ではない。
外部の告発でもない。
学園内部の人間が書いたもの。
つまり。
この断罪劇は、
誰かが仕組んだ可能性がある。




