シーン4 噂の連鎖
マリアの沈黙。
それは舞踏ホールの空気を大きく変えていた。
証言。
そう思われていた言葉が、
実はただの「伝聞」だった。
ざわめきが広がる。
「見たわけではないのか?」
「聞いただけ……?」
貴族たちの視線が揺れる。
その中心で、
レティシアは静かに口を開いた。
「社交界の噂というものは」
落ち着いた声。
講義のような口調だった。
「こうして広がります」
彼女はゆっくりと指を一本立てる。
「まず」
「Aが何かを聞く」
二本目の指。
「AはそれをBに話す」
三本目。
「BはそれをCに伝える」
そして、軽く肩をすくめた。
「やがて」
一拍。
「CはそれをDへ」
「DはEへ」
「EはFへ」
ホールの貴族たちは、
黙ってその説明を聞いている。
レティシアは静かに結論を言った。
「そして最後には」
彼女は周囲を見渡す。
「誰も」
「最初に言った人間を知らなくなる」
沈黙。
その説明は、
あまりにも分かりやすかった。
貴族たちの顔に、
理解が広がる。
一人の貴族が呟く。
「……確かに」
別の貴族が頷く。
「社交界ではよくあることだ」
令嬢の一人も言う。
「私も……」
「誰から聞いたのか覚えていないわ」
別の令嬢。
「気づけば皆が知っていた」
ざわめきが広がる。
それは今までとは違う種類のざわめきだった。
噂。
それは証拠ではない。
ただの情報の連鎖。
そしてその連鎖は、
事実と誤解を区別しない。
レティシアは静かに言った。
「つまり」
「今回の噂も」
一拍。
「同じ可能性があります」
その言葉が、
舞踏ホールに重く落ちた。
誰かが最初に言った。
それを誰かが信じた。
そして社交界全体へ広がった。
もしそれが誤りなら――
この断罪劇は、
噂だけで作られた可能性がある。
空気が変わる。
完全に。
貴族たちは、
ようやく同じ疑問に辿り着いていた。
では。
最初に言ったのは誰なのか。




