シーン3 噂の発生源
リリアの沈黙は、舞踏ホールに重く残っていた。
誰も言葉を発さない。
だが。
その沈黙が、
新しい疑念を生み始めていた。
レティシアはそれを感じ取っていた。
彼女はリリアから視線を外す。
そしてゆっくりと、
別の人物へ視線を向けた。
令嬢マリア。
先ほど証言した三人目の証人。
レティシアを睨んでいた、
リリアを無視するよう社交界に指示していた――
そう証言した人物。
マリアは突然視線を向けられ、
わずかに肩を震わせた。
レティシアは静かに言う。
「マリア様」
その呼びかけに、
ホールの視線がまた一人の令嬢へ集まる。
マリアはぎこちなく背筋を伸ばした。
「……何かしら」
声は平静を装っている。
だがわずかな動揺が混じっていた。
レティシアは落ち着いた声で続ける。
「あなたは先ほど」
「証言しましたね」
ゆっくりと言葉を区切る。
「私が」
「リリアを睨んでいたと」
マリアは一瞬黙った。
だが、すぐに答える。
「……ええ」
短い返答。
その言葉に、周囲の貴族たちが頷く。
確かにそう言っていた。
レティシアは軽く頷いた。
「確認ですが」
その声は淡々としている。
まるで授業のように。
「それを」
一拍。
「誰から聞きました?」
その瞬間。
マリアの表情が固まった。
「……え?」
予想していなかった質問。
レティシアは同じ言葉を繰り返す。
「あなたは」
「誰から」
「それを聞いたのですか?」
沈黙。
マリアの視線が揺れる。
右へ。
左へ。
まるで答えを探すように。
だが。
出てこない。
貴族たちがざわめき始める。
「……聞いた?」
「目撃ではないのか?」
別の令嬢が言う。
「直接見たわけでは?」
空気が揺れる。
マリアの額に、うっすら汗が浮かぶ。
「それは……」
言葉が詰まる。
「私は……」
しかし、
続きが出ない。
舞踏ホールの空気が
また一段階、
変わった。
なぜなら、
今明らかになったのは――
マリアの証言もまた、
直接の目撃ではなかったという事実だった。




