シーン2 リリアの沈黙
舞踏ホールの視線が、
一人の少女に集まっていた。
リリア・フェイン。
小さな体。
質素なドレス。
その少女は、まるで逃げ場を失った小動物のように立ち尽くしている。
レティシアは静かに彼女を見つめていた。
怒りも、
嘲笑もない。
ただ、
事実を求める目。
そしてゆっくりと口を開く。
「答えてください」
その声は穏やかだった。
だが舞踏ホール全体に、はっきりと響く。
リリアの肩がびくりと震える。
レティシアは続けた。
「あなたは」
一拍。
「何を見ましたか?」
静寂。
完全な静寂だった。
誰も息をしない。
貴族たちはその答えを待っている。
なぜなら、
彼女こそが
被害者のはずだからだ。
階段事件。
嫌がらせ。
暴言。
そのすべてを受けた少女。
ならば。
彼女は見ているはずだ。
しかし。
リリアの唇は震えるだけだった。
「わ、私は……」
声が出ない。
喉が詰まる。
大きな瞳に涙が溜まっていく。
ぽたり。
一滴の涙が落ちた。
しかし。
それでも答えは出ない。
「……」
沈黙。
レティシアは急かさない。
ただ見ている。
その時間が、
逆に重くのしかかる。
やがて。
舞踏ホールのどこかで、
小さな声が上がった。
「……待って」
別の声。
「なぜ答えない?」
貴族たちがざわめき始める。
令嬢の一人が困惑した顔で言う。
「被害者なのに……」
別の貴族が続ける。
「見ているはずでは?」
「突き落とされたなら……」
疑問が、
静かに広がっていく。
それはまだ小さな疑念だった。
だが確実に、
この場の空気を変えていた。
リリアは俯いたままだ。
肩が震えている。
涙は流れている。
しかし――
答えはない。
その沈黙が、
逆に一つの事実を浮かび上がらせていた。
もしかして。
彼女は――
何も見ていないのではないか。




