シーン5 嫌がらせ疑惑崩壊
舞踏ホールの空気は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
最初の証言。
カイルの暴言目撃。
それが崩れた。
次に出された証拠。
教科書隠し。
それも存在しなかった。
貴族たちは互いの顔を見始めていた。
疑念。
戸惑い。
そして――不安。
その中心に立つレティシアは、変わらず静かだった。
彼女は一歩だけ前へ出る。
ドレスの裾が静かに揺れる。
「教科書事件は」
淡々とした声。
「誤解です」
会場がざわめく。
レティシアは続けた。
「教科書は隠されていない」
「忘れていただけ」
短い説明。
だが、その事実は大きかった。
最初は小さな声だった。
「……では」
別の貴族が言う。
「噂は?」
その言葉に、空気がさらに揺れる。
噂。
そう。
この断罪劇の多くは、
噂から始まっていた。
令嬢たちが顔を見合わせる。
「待って……」
一人の令嬢が小声で言う。
「私……直接見たわけじゃないわ」
別の令嬢も続く。
「私も……聞いただけ」
さらに一人。
「マリア様が言っていたから……」
言葉が連鎖していく。
「噂だけ?」
その言葉が、
舞踏ホールに重く落ちた。
ざわめきが広がる。
貴族A
「では嫌がらせは」
貴族B
「確認されていない?」
貴族C
「すべて噂か?」
社交界が揺れる。
それまで確定していた“悪役令嬢の罪”が、
次々と
霧のように消えていく。
そして。
人々の視線が、
ゆっくりと移動する。
レティシアではない。
噂を広めた者たちへ。
取り巻き貴族へ。
そして――
王太子アルフォンスへ。
空気が変わった。
完全に。
レティシアはそれを確認すると、
小さく微笑んだ。
まだ終わっていない。
これはまだ、
反撃の途中なのだから。




