シーン4 第二証拠 ― 使用人証言
カイルの沈黙が、まだ舞踏ホールに残っていた。
最初の証言。
それが崩れた。
その事実だけで、貴族たちの視線は変わり始めている。
そんな空気の中で、レティシアは落ち着いたままだった。
彼女は日誌を閉じる。
そして静かに言った。
「次」
短い言葉。
しかし、その一言でホールが再び緊張に包まれる。
レティシアは視線を入口へ向けた。
「証人を呼びます」
その言葉に応えるように、一人の女性が前へ進み出た。
黒いメイド服。
落ち着いた姿勢。
年齢は四十ほど。
公爵家のメイド長だった。
彼女はレティシアの横に立つと、恭しく一礼する。
「アルヴェルン公爵家メイド長、エリナでございます」
その声ははっきりしていた。
レティシアは言う。
「彼女は、私の学園生活を管理している者です」
そして本題に入る。
「先ほど王太子殿下は」
「教科書隠しの嫌がらせがあったと述べました」
会場が静まる。
レティシアはメイド長を見る。
「エリナ」
「報告を」
メイド長は頷く。
そして貴族たちへ向き直った。
「結論から申し上げます」
落ち着いた声。
「教科書隠しは存在しません」
ざわっ――
舞踏ホールが揺れる。
アルフォンスの眉が動く。
メイド長は続けた。
「当日、リリア様は教科書を持参しておりませんでした」
短い間。
「つまり」
「忘れていたのです」
会場が大きくざわめく。
「忘れた……?」
「嫌がらせではないのか?」
メイド長はさらに書類を取り出した。
「こちらは教室の生徒の証言書です」
数枚の紙。
それは学園の生徒たちの署名入りの証言だった。
メイド長が読み上げる。
「教科書を隠された事実はない」
「リリアは自分で探していた」
「誰もレティシアを見ていない」
ざわざわと貴族たちが騒ぎ始める。
令嬢の一人が言う。
「では……」
別の貴族が続ける。
「噂は?」
「誰が言い始めた?」
空気が大きく揺れる。
先ほどまで確定していた罪が、
また一つ
崩れた。
レティシアは静かに立っている。
焦りはない。
彼女はただ、次の証拠を出しただけだった。
しかしそれだけで、
断罪劇は
さらに大きく崩れ始めていた。




