シーン3 カイル証言崩壊
ざわめきが舞踏ホールに広がっていた。
日誌。
教師の署名。
それは単なる言い訳ではない。
記録。
しかも公的な証明付きの記録だった。
レティシアはゆっくりと顔を上げる。
その視線はまっすぐ――
カイルへ向けられていた。
侯爵子息カイル。
最初に証言した男。
彼はまだ強気な顔を保っていたが、その目にはわずかな動揺が見え始めている。
レティシアは静かに言った。
「カイル様」
名を呼ばれ、カイルの肩がわずかに揺れる。
レティシアは続けた。
「私はその時間」
日誌を軽く持ち上げる。
「図書塔の授業に出席していました」
落ち着いた声。
動揺はない。
そして、次の言葉を投げる。
「あなたは」
一拍。
「どこで聞いたのです?」
舞踏ホールの空気が止まる。
カイルの表情が固まった。
「……何?」
レティシアはもう一度言う。
「あなたは“聞いた”と証言しました」
「ですが」
「その時間、私は図書塔にいました」
彼女の声は穏やかだった。
だが、逃げ道を完全に塞ぐ言葉だった。
「では」
レティシアは小さく首を傾げる。
「あなたは」
「どこで」
「それを聞いたのです?」
沈黙。
カイルの口が開く。
だが。
言葉が出ない。
「……」
ほんの数秒。
だが、その沈黙は長かった。
舞踏ホールがざわめき始める。
「待て……」
「時間が合わない」
「証言が違うぞ」
別の貴族が言う。
「図書塔にいたなら」
「暴言は不可能ではないか?」
令嬢の一人が呟く。
「矛盾している……」
カイルの額に汗が浮かぶ。
彼は何か言おうとする。
「いや、私は――」
だが。
続かない。
その瞬間。
人々は理解した。
最初の証言。
暴言。
それは――
崩れた。
侯爵子息カイルの証言は、
静かに、
しかし完全に
信頼を失っていた。




