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シーン9 リリアへの質問
ざわめきは、まだ完全には収まっていなかった。
貴族たちは小声で議論を続けている。
断罪は正しいのか。
証言は十分なのか。
舞踏ホールの空気は、先ほどまでとはまったく違うものになっていた。
その中で。
レティシアは、ゆっくりと視線を動かした。
今まで一度も、まともに見ていなかった人物。
王太子の後ろに立つ少女。
平民。
リリア・フェイン。
彼女は俯いたまま、両手を胸の前で握りしめていた。
小さな体が、わずかに震えている。
レティシアは初めて、その少女へ向き直る。
そして静かに名を呼んだ。
「リリア・フェイン」
その声に、
少女の肩がびくりと揺れた。
舞踏ホールの視線が一斉に集まる。
王太子も、貴族たちも、
誰もがこの瞬間を見ている。
レティシアの声は落ち着いていた。
責めるような響きはない。
ただ、淡々とした確認の声。
「あなたは」
一拍。
「私が何をしたのか」
さらに一拍。
「見たの?」
その瞬間。
舞踏ホールの空気が凍った。
誰も動かない。
誰も息をしない。
たった一つの問い。
だが、それはこの断罪劇の核心だった。
被害者であるはずの少女。
その少女が、
本当に見たのか。
すべての視線が、
リリア・フェインへ集まる。
少女の唇が震えた。




