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悪役令嬢は世界のバグを修正する  作者: 南蛇井


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シーン8 社交界の空気が変わる

レオンの沈黙。


それは短い時間だった。


だが、その沈黙は舞踏ホール全体に波紋のように広がっていく。


最初は、ほんの小さな囁きだった。


「……待て」


年配の貴族が低く呟く。


隣の男が顔を寄せる。


「どうした?」


「今の話だ」


彼は眉をひそめる。


「証言だけでは弱い」


別の場所でも、似た声が上がる。


「確かに……」


「突き落とした瞬間を見た者はいないのか?」


「それでは断定できないのでは?」


小声の会話が広がっていく。


まるで水面に落ちた石の波紋のように。


令嬢たちも扇子の陰で囁き始める。


「本当にやったの?」


「まだわからないわ」


「証拠は出ていないもの」


その言葉が、空気を変えていく。


つい先ほどまで。


この舞踏ホールは一つの結論に支配されていた。


レティシアは罪人。


断罪は正しい。


だが今。


その確信が揺らいでいる。


「もしかして……」


「まだ決まっていないのでは?」


誰もはっきりとは言わない。


だが、


断罪劇の空気が


ゆっくりと崩れ始めていた。


その中心にいるのは、


ただ静かに立つレティシア。


彼女は何もしていない。


ただ質問しただけ。


それだけで――


社交界の世論が動き始めている。


その様子を見て、


アルフォンスの顔が変わった。


焦り。


ほんのわずかなものだが、


確かにそこにあった。


彼は気づき始めている。


この舞台の流れが、


自分の手から


少しずつ離れていることに。

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