シーン6 証言の穴
舞踏ホールの空気は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
断罪の勢いは止まり、
人々は考え始めている。
本当に――
証明されているのか?
その静かな変化を感じ取りながら、
レティシアはゆっくりと視線を動かした。
そして、
ある人物の前で止まる。
侯爵子息。
カイル。
先ほど、最初の証言をした青年だ。
レティシアは静かに言う。
「カイル様」
突然名を呼ばれ、カイルはわずかに眉を動かした。
レティシアは続ける。
「あなたは先ほど」
「私がリリア様に暴言を吐いたと証言しましたね」
落ち着いた声。
責める口調ではない。
ただ確認するような言い方だった。
カイルは頷く。
「そうだ」
強く答える。
「私は確かに聞いた」
その言葉に、何人かの貴族が頷く。
だがレティシアは、動じない。
彼女は次の質問を投げた。
「では」
短い間。
「他に聞いた人は?」
その瞬間。
カイルの表情が止まった。
舞踏ホールの空気が、わずかに揺れる。
カイルは口を開く。
だが――
言葉が出ない。
「……」
沈黙。
数秒の沈黙。
それだけで十分だった。
貴族たちが互いの顔を見る。
「……他に?」
「いないのか?」
「聞いたのは彼だけ?」
小さなざわめきが広がる。
レティシアは静かに立っている。
追い詰めるような言葉は使わない。
ただ、質問しただけ。
それだけで、
証言の中にあった小さな穴が、
ゆっくりと人々の目に見え始めていた。




