シーン3 核心の一言
ざわめきの残る舞踏ホール。
その中心で、レティシアは静かに立っていた。
彼女はゆっくりと視線を動かす。
王太子アルフォンス。
証言したカイル。
レオン。
マリア。
そして、涙を浮かべたリリア。
その全員を一人ずつ確認するように見渡す。
まるで、
授業の発表を聞き終えた教師のような落ち着きだった。
そして、レティシアは口を開く。
「証言は聞きました」
静かな声。
しかし、その声は舞踏ホールの隅々まで届いた。
貴族たちは息を潜める。
レティシアは続ける。
「興味深い話でした」
その言葉に、
ざわっ――
空気が揺れた。
皮肉。
誰もがそれを理解した。
カイルが眉をひそめる。
レオンが不快そうに顔を歪める。
アルフォンスの視線も鋭くなる。
しかしレティシアは、まったく動じない。
むしろ穏やかな表情のままだった。
「暴言」
「孤立工作」
「教科書隠し」
「階段事件」
彼女は一つ一つの言葉をゆっくり並べる。
まるで、資料を整理するかのように。
そして。
小さく首を傾げた。
「なるほど」
その仕草だけで、
会場の空気がわずかに揺れる。
次の瞬間。
レティシアは、はっきりと言った。
「では――」
ほんの一拍の沈黙。
その後。
「証拠は?」
言葉は短かった。
だが。
その一言が落ちた瞬間、
舞踏ホールの音が消えた。
ざわめきも。
囁きも。
息遣いさえも。
すべてが止まった。
貴族たちは互いの顔を見る。
王太子も言葉を失う。
それは、
あまりにも単純な問いだった。
だが同時に、
この断罪劇の根幹を突く問いでもあった。
証言はあった。
噂もあった。
涙もあった。
だが――
証拠は?
その言葉は、
まるで刃のように舞踏ホールの空気を切り裂いた。




