第4章 悪役令嬢の微笑 シーン1 沈黙の舞踏ホール
「私の番ね」
その一言が落ちた瞬間。
舞踏ホールの空気が凍りついた。
誰も動かない。
数百人の貴族が集まる王城の大ホールは、先ほどまでのざわめきが嘘のように静まり返っていた。
シャンデリアの光だけが、静かな床に揺れている。
貴族たちは互いの顔を見た。
混乱が広がる。
(断罪は終わったはずだ)
(証言も揃っている)
(王太子が罪人と宣言した)
なのに――
なぜ反論する?
なぜまだ立っていられる?
ざわ……ざわ……
小さなざわめきが広がる。
「どういうことだ」
「まだ何か言うつもりなのか?」
「往生際が悪い……」
だが。
その中心にいるレティシア・アルヴェルンは、微動だにしていなかった。
背筋をまっすぐに伸ばし、
優雅なドレスをまとい、
まるで舞踏会の主役のように立っている。
断罪された者の姿ではない。
追い詰められた人間の顔でもない。
むしろ――
楽しんでいるように見えた。
まるでこの状況が、彼女にとっては舞台劇の一幕にすぎないかのように。
その様子に、数人の貴族が顔をしかめる。
「……何だ、あの態度は」
「正気か?」
空気がざわつく中。
アルフォンスが一歩前へ出た。
その顔には、明らかな苛立ちが浮かんでいる。
王太子として、
この場の主導権は自分にあるはずだった。
しかし。
今、その空気が揺らいでいる。
原因は――
目の前の婚約者。
アルフォンスは低い声で言った。
「レティシア」
その名を呼ぶ声には冷たさが混じる。
「まだ言うことがあるのか?」
問いというより、
苛立ちを押し殺した言葉だった。
舞踏ホールの視線が、
再びレティシアへ集まる。
断罪されたはずの悪役令嬢。
その彼女が、
ゆっくりと顔を上げた。




