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シーン10
王太子の宣言が落ちたあと。
舞踏ホールには、奇妙な静寂が広がっていた。
誰もが同じ結論に到達している。
断罪は終わった。
そう思っていた。
その時だった。
「……終わり?」
小さな声。
しかし、その声は不思議なほどよく響いた。
ざわめきが止まる。
全員の視線が一斉に向く。
レティシア・アルヴェルン。
彼女はゆっくりと顔を上げた。
その表情は変わらない。
落ち着き。
余裕。
そして、わずかな微笑。
アルフォンスが眉をひそめる。
「何だと?」
だがレティシアは構わず続けた。
「終わりなの?」
静かな声。
まるで授業の確認をするかのような口調だった。
誰も答えない。
舞踏ホールは、凍りついたように静まり返っている。
レティシアは小さく頷いた。
「そう」
そして――
ゆっくりと一歩前へ出る。
ドレスの裾が、床を静かに滑る。
その音だけが、広いホールに響いた。
彼女は言う。
「では」
ほんの一瞬の沈黙。
その後、
レティシアは優雅に微笑んだ。
「私の番ね」
その言葉が落ちた瞬間。
舞踏ホールの空気が、完全に凍りついた。
誰も動かない。
誰も声を出さない。
断罪されたはずの悪役令嬢が、
まるでこれから舞台の主役になるかのように、
静かに立っていた。
――第3章 終了。




