シーン9 レティシア
舞踏ホールの視線は、すべて彼女へ向いていた。
断罪された公爵令嬢。
罪人。
悪役。
その中心に立つのが――
レティシア・アルヴェルン。
普通なら。
泣き崩れる。
言い訳する。
あるいは怒り狂う。
だが。
レティシアは違った。
彼女は、ただ静かに立っている。
背筋を伸ばし、
ドレスの裾を揺らすこともなく、
まるで最初からこの場の空気を理解していたかのように。
その表情には――
動揺がない。
恐怖もない。
むしろ。
ほんのわずかに。
口元が緩んでいた。
微笑。
それは、侮蔑でも嘲笑でもない。
もっと別のもの。
何かを確信した者の、
余裕のある微笑み。
それに気づいた者が、少しだけざわつく。
「……?」
「どうして……」
「なぜ笑っている?」
令嬢の一人が小さく呟く。
「普通じゃないわ……」
アルフォンスも眉をひそめた。
「……何がおかしい」
レティシアはその問いには答えない。
ただ静かに、会場を見渡した。
王太子。
取り巻き。
涙の少女。
そして――
断罪を期待していた社交界。
その全員を見て。
レティシアは、ほんの少し楽しそうに思った。
(なるほど)
心の中で、彼女は呟く。
(ここまで綺麗に揃うのね)
証言。
空気。
世論。
断罪劇。
まるで――
よく出来た舞台劇のようだった。
そして。
彼女の微笑は、ほんの少し深くなる。
恐怖ではない。
焦りでもない。
むしろ。
これから起こることを、
少し楽しみにしているような顔だった。




