シーン10
舞踏ホールは、静まり返っていた。
誰もがレティシアを見ている。
王太子アルフォンス。
証言した貴族たち。
涙を浮かべるリリア。
そして数百人の社交界の人々。
そのすべての視線が、一点へ集まっていた。
レティシア・アルヴェルン。
悪役令嬢。
婚約を破棄され、
数々の罪を告げられ、
公開の場で断罪されている少女。
普通なら、言葉を失っている場面だ。
しかし。
レティシアはゆっくりと息を吐いた。
そして――
静かに口を開く。
「……そう」
短い言葉。
それだけだった。
彼女は小さく頷く。
まるで、今聞いた話を一度整理するかのように。
その仕草は驚くほど落ち着いていた。
アルフォンスがわずかに眉を動かす。
周囲の貴族たちも、ざわめきを止めている。
レティシアは顔を上げた。
そして、まっすぐ王太子を見る。
その瞳は静かだった。
怒りも、
恐れも、
動揺もない。
ただ、冷静な光だけがある。
やがて彼女は、穏やかな声で言った。
「では」
ほんの一拍の間。
そして。
「証拠は?」
その一言が落ちた瞬間。
舞踏ホールの空気が凍りついた。
誰も言葉を発しない。
ざわめきもない。
まるで時間そのものが止まったかのように、
完全な沈黙が広がる。
誰もが同じことを思っていた。
――証拠。
レティシア・アルヴェルンは、
反論ではなく、
ただそれを求めたのだ。
舞踏ホールの中央で、
王太子アルフォンスの表情がわずかに固まる。
そして。
静寂の中、
断罪劇は次の段階へ進もうとしていた。
――第2章 終了。




