シーン5 婚約破棄の理由
ざわめきはまだ収まっていない。
貴族たちは互いに顔を見合わせ、囁き合っている。
だがアルフォンスは、その騒ぎを意に介さない様子だった。
王太子はゆっくりと視線を巡らせる。
舞踏ホール。
集まった貴族たち。
そして最後に、レティシアをまっすぐ見据えた。
その目には、もはや迷いはない。
「理由は明白だ」
低く、しかしはっきりとした声。
ざわめきが、再び静まり始める。
貴族たちは続きを待った。
アルフォンスは一歩踏み出す。
その背後では、リリアが不安そうに立っている。
王太子は彼女を一瞬だけ振り返り、再び前を見る。
そして告げた。
「お前は――」
短い沈黙。
舞踏ホールの空気が張り詰める。
アルフォンスの言葉が、静寂を切り裂いた。
「リリア・フェインに嫌がらせをしていた」
その一言が落ちた瞬間、
ホールの空気が揺れる。
「……!」
「やっぱり……」
「本当だったのか」
貴族たちの声が広がる。
噂はあった。
王立学園で、平民の少女がいじめられているという噂。
そして、その中心にいるのが――
公爵令嬢レティシア・アルヴェルンだという話。
だがそれは、あくまで噂だった。
しかし今。
王太子自身の口から、その言葉が告げられた。
舞踏ホールの視線が、再びレティシアへ集中する。
冷たい目。
好奇の目。
そして、断罪を待つ目。
その中心で、レティシアは立っていた。
相変わらず、静かな表情のまま。




