シーン3 貴族たちの反応
ざわめきは、瞬く間に舞踏ホール全体へ広がった。
先ほどまでの静寂が嘘のように、貴族たちの声があちこちで上がる。
「本当にやった……!」
若い貴族の一人が、驚いたように声を漏らした。
隣にいた友人が、半ば興奮したように囁き返す。
「舞踏会でだぞ……? こんな公の場で」
「まさか本気でやるとはな」
別の場所では、令嬢たちが扇子の陰で顔を寄せ合っていた。
目を輝かせながら、小声で囁き合う。
「ついに……」
「ええ、やっぱり今日だったのね」
「噂は本当だったのよ」
その声には、驚きよりも期待が混じっていた。
まるで待ち望んでいた劇の幕が、ようやく上がったかのように。
遠くでは年配の貴族が眉をひそめている。
「王太子が、舞踏会で婚約破棄とは……」
「前代未聞だ」
しかし、その隣では若い貴族が小さく笑った。
「だが面白いじゃないか」
その一言に、何人かがくすりと笑う。
社交界は、噂を好む。
そしてスキャンダルを、何よりの娯楽として楽しむ。
王太子。
公爵令嬢。
平民の少女。
これほど分かりやすい“物語”は、そうそうない。
貴族たちの視線が、再び舞踏ホールの中央へ集まる。
アルフォンス。
そして――
レティシア・アルヴェルン。
婚約を破棄されたはずの悪役令嬢は、まだそこに立っていた。
騒ぎの中心にいながら。
まるで嵐の外側にいるかのように。
静かに。
優雅に。
その姿を見て、誰かが小さく呟いた。
「……泣かないのか?」




