シーン2 王太子の宣言
静まり返った舞踏ホール。
誰もが息を潜めていた。
その中央で、アルフォンスがゆっくりと一歩前へ出る。
磨かれた床に、靴音が小さく響いた。
たったそれだけの音が、やけに大きく感じられる。
王太子は背筋を伸ばし、堂々とした姿勢で立っている。
金の髪がシャンデリアの光を受けて輝き、王族らしい威厳を漂わせていた。
だが、その表情には固い決意が浮かんでいる。
彼はまっすぐにレティシアを見据えた。
そして、はっきりと声を上げる。
「レティシア・アルヴェルン」
その名が、再び舞踏ホールに響いた。
数百人の貴族が、息を呑む。
レティシアは静かに立ったまま、その呼びかけを受け止めていた。
アルフォンスは続ける。
「私は今ここで宣言する」
その言葉に、空気がさらに張り詰める。
誰もが知っている。
これから何が言われるのかを。
しかし、それでも。
王太子自身の口から告げられる瞬間を、人々は待っていた。
アルフォンスは一瞬だけ言葉を切る。
そして、次の瞬間。
はっきりと、断言した。
「お前との婚約を破棄する!」
その声は、広い舞踏ホールの隅々まで届いた。
一瞬の沈黙。
まるで時間が止まったかのような、短い静寂。
そして――
ざわっ。
空気が揺れた。
「本当に言った……!」
「婚約破棄だ!」
「舞踏会で……?」
貴族たちの声が一斉に広がる。
ざわめきは波のようにホールを走り、瞬く間に大きくなっていく。
扇子の影で笑う令嬢。
驚いた顔をする若い貴族。
興奮したように囁き合う人々。
誰もがこの瞬間を、劇のクライマックスのように見つめていた。
舞踏ホールは、もはやただの社交の場ではない。
公開の舞台だ。
そしてその舞台の中央にいるのは――
婚約を破棄された悪役令嬢。
レティシア・アルヴェルンだった。




