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残り22時間15分08秒


 シガからの要らぬお節介(アドバイス)に大人気なく反発してしまい、俺は少しバツが悪かった。

 気晴らしにその辺を歩いていると――。


 ――ドズン。


 ()()に足を引っかけ、盛大に転んだ。


「い、った……!」


 慌てて振り返ると、そこには人が倒れていた。

 ……こんな道のど真ん中で?


「だ、大丈夫ですか!?」


 発作でも起こしたのか、それとも俺のせいか。

 慌てて這いつくばるように近づくと、倒れている男から返ってきたのは――豪快ないびきだった。


「酒くさっ!」


 思わず鼻を押さえて叫ぶ。彼からは強烈なアルコール臭が漂ってきた。


「――その人、このゲームが始まってからずっとその調子で……何やっても起きませんよ」

「え?」


 声の方を見ると、壁を背に座り込む少年がいた。

 アンニュイな雰囲気、耳にはイヤホン。ジャージには英字で学校名が刺繍されている。


「学生……?」

「あー……まあ」


 出会って早々だったけど、勢いに任せて俺は“探偵役”だということを名乗る。


「……それで君の名前、聞いてもいいかな?」


 少年は露骨に嫌そうな顔をした。


「……名乗るの、苦手なんで」


 ここに集まった人たちの半分はもしやシャイなのか。

 とは言え名乗ってもらわないと、と悩んでいると。丁度良く助け舟がやって来た。


「ツムギくん」

「やれやれだぜ、ツムギくん。次のイベント起こすなら先に言って欲しいもんだ」

「別に起こしたくて起こしたわけじゃないですよ」


 俺を茶化して笑っていたシガだったが、少年を見た途端に真顔になった。


「おや、君は確か……」

「知ってるんですか、シガさん?」

「界隈じゃ有名なスポーツ高校生だ」


 彼にそんな雰囲気はまったくなく。俺は目を丸くする。


「そ、そうなんだ。ごめん、そういうのには疎くて……」


 一応謝ったが、少年は無言で視線を逸らした。怒っているというより、興味がなさそうだった。


「それで、何のスポーツ選手なんですか?」

「ありとあらゆるジャンルをやってるが……一番はスバ6だな」

「スバ6?」


 俺は首を傾げる。


「あらら、知らない? スーパーバトルファイターズ6――通称スバ6」


 今一つピンとこない俺のために、エリカちゃんが補足する。


「ゲームの名前だよ」

「ゲ、ゲーム!?」

「そう。つまりはeスポーツってことだぜ」


 ……スポーツって、そっちか!

 ジャージ姿だったから完全に勘違いした。


「彼の名前は菅原(すがわら)天月(あまつき)くん。私立高校のeスポーツ部所属で、『ウィリアムズ』の名で大会優勝を総なめ。現在25連勝中の猛者だ」


 なぜかシガが誇らしげに紹介する。


「シガさん、ゲーム詳しいんですか?」


 そう尋ねると、彼はかぶりを振った。


「いんや。レトロゲは多少やったことあるが、最近の3Dは酔っちゃって無理だな。ただ、カメラマンの仕事で取材に何度か同行したことはあるんだな、これが」


 本人を直接取材したことはないが、他校生のライバルとして名前は何度も耳にしたらしい。

 シガが雑談に入り込む前に、俺はアマツキへと向き直った。


「……そういうことだけど、君の情報はそれで合ってる?」

「……まあ、そうです」


 必要以上は語らず、イヤホンに意識を戻すアマツキ。

 怪しいところもなさそうだし、とりあえずこれ以上聞く必要はなさそうだ。




「――ねえ」


 アマツキへの聞き取りが終わったところで、エリカちゃんが指差した。


「このおじさん、大丈夫なのかな?」


 そこには、突っ伏して眠る酔っ払いの姿。相変わらず豪快ないびきをかいている。


「うーん……やっぱ、起こした方がいいよね」


 このままじゃこの“ゲーム”が進まない。

 気合を入れて、俺は酔っ払い男性の肩を揺すった。


「あの、起きてください! 風邪引きますよ!」


 ……そもそも展望フロアで酔っ払って寝ることなんてあり得るのか?

 普通ならとっくに警備員(タカさん)に連れ出されてるはずだろうに。


「……無駄ですよ。俺も色々試したけど、全然起きませんでした」


 アマツキが淡々と言う。


「彼を起こそうとしてくれてたんだ?」

「まあ……そこで寝られると邪魔だし、煩いんで」


 こんなめんどくさそうな酔っ払いを放っとかずに見てあげていたとは。

 無愛想に見えて、根は優しいのかもしれない。


「……聞き取りは後回しでもいいけど、ここで寝られるのは確かに困るよな。現に俺はこの人につまずいて転んだわけだし――」


 と、ふと気付く。

 見ていたなら、なんで転ぶ寸前で呼び止めてくれなかったんだ?

 俺の視線に気付くと、アマツキは静かに目を逸らした。


「……声掛けようと思ったら、そのときにはもう転んでたんで。俺は悪くない……」


 彼はぼそりと、そう答えた。




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