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残り24時間00分03秒



 さて、次は誰に事情聴取をするべきか。

 ……こうなったらもう、やけくそで片っ端から声をかけてやろうか。

 なんてことを考えていた、そのときだった。


「いやあ、すまん! 急に腹を下して便所に籠っていたら、思った以上に時間が掛かってしまった!」


 いきなり盛大なカミングアウトをしつつ現れたのは、中年くらいの男性だ。

 彼はこのビルの警備員の服を着ていた。


「それで……状況はどこまで進んでいるんだ?」


 爽やかな笑顔にガタイの良い体格。まるで警備員というよりスポーツ選手か格闘家のような印象だ。


「あ、いえ…まだ二人くらいしか聞けてなくて」

「二人!? 残り二十四時間あるとはいえ、そのペースでは徐々に遅れが出てしまうぞ。犯人を割り出す時間が狭まってしまう」


 痛いところを突かれ、胸が苦しい。

 ……確かにそうだ。俺がひよっているせいで”タイムリミット”なんて結末になったら、考えるだけで恐ろしい。

 エリカちゃんも同じ思いらしく、男性の後ろでこくりとうなずいていた。


「けど俺、探偵役ならしたことがあるけど……実際の探偵なんて、どう話を切り出せばいいかもわからなくて」

「探偵”役”?」


 警備員男性の反応はもっともだ。

 隣のシガも、何故か興味津々で耳を澄ましている。


「25人の中にツムギくんも含まれてるんだから、身の上はちゃんと話しといた方がいいぜ?」


 シガからそんなふうに言われてしまう。

 確かに今は素性を隠す方が逆に怪しまれてしまう。

 ……まあ、そもそも隠すほどの事情でもない。俺は肩をすくめて答えた。


「俳優志望なんですよ。25歳にもなってまだ芽も出てないんですけどね」

「いや、夢を抱いて努力するのは大事な活力だ! そのために清掃員のバイトまでしているってことなんだろう? えっと、名前は……」

白旗(しらはた) 紡麦(つむぎ)です」


 俺はネームプレートを見せた。

 すると警備員男性はニカッと笑い、自分の手を差し出した。


「オレは高清水(たかしみず) 四半(しはん)だ。このビルの警備員で、仲間うちではタカさんと呼ばれている。君もそう呼んでくれて構わないぞ!」


 少々圧が強いが、悪い人には見えない。

 そう思いながら俺は握手を交わした。


「ちなみにタカさんは若そうですけど……おいくつなんすか?」

「はははっ、こう見えて五十の節目だ。鍛えてはいるが、もうガタが来てるボロボロのおっさんだ!」


 五十。その数字に俺は目を丸くした。

 ふとシガに視線をやる。タカさんは、どう見ても彼より数歳年上くらいにしか見えない。


「……ちなみに、シガさんはいくつなんですか?」

「三十三歳だけど何が言いたいのかな、ツムギくん?」

「いえ、別に」


 俺はシガから直ぐに視線をそらした。




「――あの、すみません」


 突然の声に俺は周囲を見回す。

 エリカちゃんに袖を引かれ、その先を見ると、三人の女性が立っていた。


「自分のこと話したら、あとは自由に過ごして良いって聞いたんだけど……」


 うつむき気味の女性の言葉に、俺は思わず驚く。

 ……え、いつの間にそんな話になったんだ?


「え?」

「この状況にそろそろ疲れてきたっていうかー、あたしたちお昼ごはんも食べてなくて~。だからサクッと話終わらせて、解放して欲しいなって」

 

 毛先をくるくる指先でもてあそびながら話す陽キャっぽい女性。正直、俺の苦手とするタイプだ。


「そう言われても、俺に解放権限があるわけじゃないんだけど……」

「え~、でも犯人を当てれば終わりなんだよねー? だったら早く当てちゃってよー」


 またも痛いところを突かれ、俺は無意識に胸元を押さえた。

 ――だがしかし。このゲームが始まってもう一時間ほど。そろそろこういう不満が出てくる頃でもある。


「ツムギ。被疑者は25人もいるんだ。一人ずつ聴取していくよりも、複数人まとめて要点のみを聞いていった方が効率的だ。それと、気になったことはメモを取れ」


 タカさんはスマホを取り出してみせた。どうやらメモアプリで記録しろ、ということらしい。

 するとエリカちゃんがスマホを出し、「わたしがする」と小さな声で言った。

 子供が早く打ち込めるか? と思っていたが、入力スピードは俺よりも早かった。


「タカさん、まるで刑事みたいですね」

「まあ一応、元刑事だからな」

「えっ、そうなんですか?」

「まあな、ある事件をきっかけに辞めたがな」


 もっと聞いてみたい話だったが、「それより彼女たちの話を」とタカさんに促され、聞けずに終わった。




「えっと、じゃあまず誰から……?」

「あ、それなら私からでいいですか?」


 小さく手を上げたのはシックな服装の女性だ。年齢は二十代後半だろうか。

 連れの女性二人よりも大人びた雰囲気があった。


「彼女たちとの関係は?」

「あ、いえ……初対面です。貴方に直談判すると聞いて一緒に来ただけで」

「ああ、なるほど」


 メモを構えるエリカちゃんを横目に、俺は質問を続ける。


「じゃあ、お名前は?」

五十風(いそかぜ) ひゐろです。”い”は”ぬ”に近い”ゐ”って書きます」

「珍しい名前ですね」

「そうですか? 友達からは可愛いって褒めてもらえて、私は気に入ってますけど」


 職業を尋ねると、彼女は「このビルのオフィスフロアで働いています」と答えた。

 ……確かにこのビルは、ほとんどがオフィスなんだよな。

 するとヒヰロは指先をいじりながら言った。


「……私はずっと真面目に、普通に生きてきただけなんです。今日だってたまたま下の階で昼食を取って、そのままここで休憩していただけで……だから、誰かから恨まれるようなことなんて、してないんです!」

 

 徐々に熱を帯びるヒヰロの言葉に、俺は苦笑で返すしかない。

 ……俺だって気持ちは同じだ。清掃作業でたまたまこの階にやって来ただけで。選ばれた理由があるなら教えて欲しい。


「貴方の気持ちは察するが、オレたちもこの状況をほとんど把握出来ていない。だから今は冷静に待機していてくれ」

「すみません、わかりました……」


 タカさんの力強い言葉に、ヒヰロは素直にうなずき、その場を去っていった。

 


 不安なのは、皆一緒だ。

 だからこそ俺がこの状況を打破しないとダメなんだ。

 ひよっている暇なんてない。改めて、そう実感した。

 


 ……それにしても、探偵役はタカさんの方がよっぽど似合っているのに。

 何故俺が探偵役なのか。その点には今も納得していない。




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