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残り00時間10分35秒




――梅影(うめかげ) さくら。

俺の幼なじみで、元バスケ部マネージャー。今は同棲中の彼女だ。

彼女は社交的で品行方正。絵に描いたような完璧な女性で、人から恨まれるような話は聞いたことがなかった。


「私は恨んでるわ! めちゃくちゃ恨んでる! だって彼女は私よりも、こんな金魚のフン野郎を選んでるんだから!」


 その割にヒヰロは、彼女(サクラ)ではなく俺ばかりをディスる。

 ……本当に俺を恨んでいないのか?


「私はもっともっともっと、誰よりもサクラのこと愛してたのに……!」


 そう泣き叫ぶ彼女は、興奮冷めやらぬまま動機を語り出した。


「サクラと出会ったのはピアノ教室で、絶対アンタよりも早かった! 私が大嫌いだった”ひゐろ”って名前を『可愛いね』って褒めてくれた、初めての友達だった……!」


 聞けば彼女の本当の年齢は三十歳だという。

 つまり、サクラが四歳、ヒヰロが九歳のときに出会ったらしい。


「すぐに引っ越すことになって離ればなれになっちゃったけど、四年前に再会したの! それはもう奇跡だったわ!」


 ”ヒヰロ”という特殊な名前を覚えていて、それでサクラから声をかけてくれたらしい。


「趣味も合ったし、波長も合った。飲んだりおしゃべりしたり、すごく楽しくて幸せで、ずっと一緒にいたいって思った」


 以前、サクラから「親友ができた」と聞いたことがある。

 それがヒヰロなのかはわからないが、あのときは嬉しそうに話していた。

 しかし、その話題も最近はめっきり聞かなくなっていた。


「だから私言ったのよ、『貴方が好き、ずっと一緒にいたい』って……けど彼氏がいるからって、友達のままでいたいってフラれたわ」


 涙をこぼすヒヰロに、タカさんが拘束の手を緩める。

 カズコも彼女を思ってか、ティッシュを差し出していた。


「すごくすごく大好きだったの。だから彼氏がいても平気だと思ってた。なのに……段々、彼氏の話をするときの彼女が幸せそうで腹が立った。私の方が幸せなのよってオーラが、恨めしくなったの」

「サクラはそんな風に話す子じゃないよ」

「そんなの分かってる! クソに湧くウジは黙れ!」


 俺は慌てて口を噤む。

 要するに、愛情が憎悪に変わってしまったのだろう。

 現に彼女はサクラへの想いを必死に語りつつ、俺には無関心と言いながら罵詈雑言を浴びせてくる。

 ——まるで坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ってやつだ。俺はどうやらその“袈裟”らしい。


「サクラの心に私の名前を刻み込んで、永遠の後悔をさせてやりたかった……だからアンタが床を舐めてるこのビルに爆弾を仕掛けることにしたの」

「床を舐めてるって……」


 ケタケタと笑い、髪を振り乱したヒヰロの姿は、まるで魔女か鬼女のようだった。


「オレが気になるのはそこだ。お前は一体どうやって爆弾を仕掛けた? この空間は一体なんなんだ? オレたちが、お前を犯人と指名したら本当にここから出られるのか?」


 タカさんの問いに、ヒヰロは喉を鳴らしてから言った。


「さあね。私はただ自分を犠牲にして、この盤面(ゲーム)を用意してもらっただけ……今じゃあ、私もただの”犯人役”でしかないのだから」


 血の気の多いトビトが真っ先に食ってかかる。


「はあ? テメエ、ふざけたこと抜かしてねえで、さっさとここから出しやがれ……!」


 ところが、ヒヰロはタカさんの拘束をするりと抜けると、勢いよくトビトを蹴り飛ばした。

 顎に一発食らった彼は力なく崩れ落ち、イチゴが慌てて駆け寄る。


「フフフ……これが最後のゲームよ」


 そう言うとヒヰロは、背後のエレベーター開閉スイッチを押した。

 あれだけ反応しなかった扉がゆっくりと開き、爆弾めいた装置が姿を現した。

 テレビでよく見るような線がいくつも取り付けられ、 大きなタイマーがカウントダウンを続けている。


「全ての爆弾はここにあったのか……!?」

「残念ね。これは25個のうちの一つに過ぎないわ。他は予想通り、アンタたち自身が“爆弾”ってこと」


 まさか。うそだ。嫌だ。

 騒然とする声が上がる中、ヒヰロはひとしきり独り笑いしてから俺を睨む。


「さぁて、探偵役さん。爆弾はあと五分で爆破するわ。それを阻止するには、この25本のうち一本の線を切るしかない。どれを切ってもハズレじゃないけど、タイムアウトはドカーンよ!」


 非常に分かりやすいルールだ。

 つまり、どの線を切っても一応は“当たり”で、時間切れがアウトということだ。

 簡単すぎて、裏がある気がしてならないが、時間がない。

 俺は一人、エレベーターへ向かう。


「ツムギくん……!」

「危ないって! 嬢ちゃん、離れてろ!」


 エリカちゃんが駆け寄ろうとしたが、シガが慌てて制した。

 その判断は正しい。万が一にも俺が失敗する可能性があるのだから。


「どれを切ってもいいとはいえ、25は多くないですか……?」


 すると、相変わらずヒヰロは俺に冷たく返す。


「優柔不断なクズ野郎が口答えしないで……でもまあ、線をよーく見て考えることね」


 だがやはり、このゲームには秘密のルールがありそうだ。慎重に選ばなければならない。

 ……それにしても、線まで25本とは。このゲームはとことん“25”にこだわりたいようだ。


「言っとくけど、他人の手助けは禁止よ。ハサミはそこに落ちてるのを使って」


 床にはハサミが落ちていた。俺はそれを拾い、静かに爆弾を見下ろした。




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