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残り00時間15分34秒




「――ヒヰロさん。あなたはこのゲームについて、『自分は誰かから恨まれるようなことはしていない』って言ってましたよね。それは、他の人とは違う発言でした」


 名前を呼ばれたヒヰロは、目を大きく見開き、叫ぶように声を上げた。


「わ、私は“恨まれた人間”が集められたと思ったのよ! そんなこと言っただけで犯人扱いする気!?」


 必死の形相で弁明する彼女に、俺は慌てて作り笑いを浮かべた。


「お、落ち着いてくださいよ。ただ、他の人は誰もそんなこと言わなかったんで、気になっただけです」


 ――会話の中にヒントが隠れている。

 その言葉を信じて、俺は皆の一言一句を記憶し続けた。中でも、最初に違和感を抱いたヒヰロは特に注意していた。


「それと、もう一つ気になったのが……『槍撃のウィリアム』の話をしていたときです」


 俺とカズコ、そしてヒヰロが同い年の25歳だという話で盛り上がったとき、彼女はこう言っていた。


「『私も劇場版は受験の息抜きに友達と観に行ったわ』って……けど、劇場版が公開されていた時期、25歳なら(俺たち)絶対“受験生”じゃなかったんですよ」


 俺の言葉に、カズコがすぐさま賛同した。


「そ、そうですよね! 私も劇場版のときって小四くらいだった記憶だから、あれ? って思って……」


 カズコの言う通りだ。『槍撃のウィリアム』劇場版の公開はアニメ開始から二年後――つまり今から十五年前。25歳なら、当時は十歳のはずで、受験なんてまずあり得ない。


「だから……ヒヰロさんって、本当は“25歳じゃない”んじゃないかって思ったんです」


 “25歳じゃない”というのは、このゲームでは極めて重要な意味を持つ。

 なぜなら、この場にいる全員が何らかの形で“25”と関係しているからだ。

 25歳だったり、25年前の事件だったり、中には“25本の色鉛筆”や“25分休憩時間を早めた”といった曖昧なものもあるが、“全く関係ない”人間は一人もいない。


「――ヒヰロさん。あなたが“25”と関係しているのは、”25歳”という年齢じゃなくて……“25個の爆弾を仕掛けた犯人”として、じゃないんですか?」


 問い詰められたヒヰロは、先ほどの怒声が嘘のように沈黙した。

 すると、彼女を庇うように「待ってくれ」とタカさんが前へ出た。


「昨日、“25個の爆弾は未知の力でオレたちの体内に取り込まれている”って話が出たが……だとすれば、彼女は人間ではないということになるのか?」


 体内に爆弾。その言葉に、何人かが青ざめて悲鳴を漏らす。

 だがタカさんは構わず続けた。


「それに彼女の動機はなんだ? 25年前の事件とも関係なく、“25神妙教”とも無関係だというなら、一体……」

「ヒヰロさんが魔女なのか、マッドサイエンティストなのかはわかりませんが……動機については、なんとなくわかります」


 俺はそう言って、一枚の紙切れを取り出す。

 それは――ゲーム開始直後、俺が“探偵役”に任命されるきっかけとなったあの紙だ。


「ずっと疑問だったんです。どうして俺が“探偵役”なのか……」

「そりゃあ、その手紙を読んだのが()()()()ツムギくんだったからってことだろ?」


 シガの言葉に、俺はうなずく。


「確かに、俺は偶然エリカちゃんからこの手紙を受け取って“探偵役”になってしまった。でも、これが()()()()()()()()としたら?」


 もともとこの紙は、俺のすぐそばに落ちていて、それをエリカちゃんが拾って渡してくれただけだ。

 彼女が拾わなくても、俺自身が見つけていた可能性は高い。


「いざとなれば、ヒヰロさんが拾って俺に渡すこともできたはずですしね」

「おいおい……ってことは、“ツムギくんを探偵役に仕立て上げたかった”ってのが、動機と関係してるってのか?」

「あくまで推測ですけどね。それと気になった点がもう一つ……ヒヰロさんは俺と彼女の馴れ初めについては異様なほど興味を示したのに、トビトとイチゴさんの色恋沙汰にはまったく関心がなかった」


 俺を探偵役にしたこと、俺と彼女の馴れ初め、そしてヒヰロの口から出た“恨む”という言葉――。

 それらは一つに繋がるのではと、俺は思ったのだ。


「……もしかしてですけど。ヒヰロさんは、俺のことを“恨んでる”んじゃないんですか?」

「心当たりがあるのか……?」


 タカさんに問われて、俺は首を横に振った。


「いえ、全くないですけど」


 もし心当たりがあるなら、早めに確信していた。だが彼女とは面識すらないし、この推測が当たっているかも分からない。

 他にあるとするなら……もしかして俺のファン、とか?


「アンタなんか、一ミリも恨んじゃいないわよ!」


 突如、ヒヰロが叫んだ。


「え?」

「言っておくけど、イモ顔のアンタがド下手クソの演技しようが、過去のクソつまんないエピソード語ろうが、どうせ未来はヒモ確定だろうが、全部どうでもいいのよ!!」


 怒号と罵声をまくしたてるヒヰロの剣幕は凄まじく。周囲の誰もがドン引きするほどだった。

 しかも“恨んでいない”と言っていたのに容赦のない言葉の嵐。

 俺は思わず涙が出そうになる。


「ご、ごめんなさい……」


 気付けば、つかみかかってくる彼女の迫力に押され、つい謝ってしまっていた。

 殺気にも近いヒヰロの気迫に、タカさんが急いで引き剥がす。


「おい! とにかく落ち着け!」


 エリカちゃんも俺のそばへ駆け寄ってきた。


「ツムギくん、ケガはない……?」

「だ、大丈夫」


 反射的にそう答えたが、あと数秒遅ければ、首を絞められていたかもしれない。

 ヒヰロは羽交い絞めを受けながらも、怒声を止めない。


「――私が恨んでるのはね、“さくら”の方なのよ!」


 その名前に、俺は目を大きく見開く。

 ヒヰロの口から、まさかその名前が出るとは思わなかった。


「ツムギくん、“さくら”ってのは……?」


 シガの問いに、俺は戸惑いながらも答えた。


「……俺の、彼女の名前です」




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