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残り00時間30分33秒




 脅迫犯だったクワキノも素直に罪を認め、お縄につくこととなった。

 とはいえ、縄も紐も手元に足りないため、どうしたものかと俺たちは話し合っていた。

 そのときだ――。


――ピンポンパンポーンッ。


 久々に、どこからともなくアナウンスが聞こえてきた。


『お知らせします。間もなく、ゲーム開始から25時間が経過します。参加者の皆さまは至急、南側フロアのエレベーター前にお集まりください。繰り返します――』


「まさか、そこで犯人当ての推理ショーでもやらせようってか?」


 シガの言葉に、皆の視線が一斉に俺へと向けられる。

 心臓がドクリと跳ね、思わず肩が震えた。


「いよいよになるが……犯人に目星はついているのか?」


 タカさんの問いに、俺は弱々しくうなずく。


「は、はい。一応は……」


 全員と話してようやく答えは導き出せた。だが正直、自信なんてほとんどない。

 もし犯人を間違えていたら――そう思うと、恐怖がじわじわと募ってくる。

 すると、そんな気持ちを察してくれたのか。エリカちゃんが優しく俺の手を握ってきた。


「大丈夫だよ、ツムギくん」


 まるで『君の推理は正しいよ』と言ってくれているような、力強い言葉と眼差し。

 一抹の不安が、ゆっくりと薄れていくのを感じた。


「……ありがとう、エリカちゃん」


 彼女の小さな手を握り返し、俺は精一杯の笑みを浮かべた。

 と、そのときだ。


「オホン、いい感じでまとめてるところ悪いが……」


 咳払い一つし、タカさんがブレツへと目配せする。


「エレベーター前に集合させるため、あいつを連れ出すのを手伝ってくれないか? 一応全員歩ける状態ではあるが、誰かが付き添った方がいいからな」


 見ると、シガとトビトもそれぞれ拘束されたワカツキとクワキノに付き添っていた。


「あ、はい。わかりました……じゃあエリカちゃんは先に出てて?」


 素直にうなずいた彼女は、足早に秘密の部屋を出ていく。

 俺もタカさんと共にブレツに腕を貸し、部屋を後にした。


「……間違えるなよ」


 ブレツがおもむろに小さく呟く。


「え、今何か言いましたか?」


 彼の言葉を聞き取れず、俺は思わず聞き返す。

 ブレツは小さくため息をついたあと、もう一度低く呟いた。


「……こんなクソゲーム、さっさと終わらせろ」

「あ、はい」


 威圧的な言葉に、俺はとっさに素っ気ない返事しか返せなかった。

 だがその声音とは裏腹に、彼自身はどこか疲れ切っているようにも見える。

 ……まあ、丸一日ワカツキと一緒だったと考えれば、無理もないか。


「終わらせます。絶対に」


 そう強く言い返して、俺はブレツの肩を支えるように一歩一歩進んでいった。




 南側フロアでは、すでに他の人たちが集まっていた。


「トビくん……!」


 俺たちの集団に真っ先に飛び込んできたのはイチゴだ。

 続いてエマ、カズコ、ヒヰロも歩み寄ってくる。


「ねえ、今のアナウンス……もう時間がないってこと?」


 心配そうな顔をするエマに、俺はうなずく。


「そうですね。さっきスマホで確認したら、十二時三十分を過ぎてました」


 俺の言葉に、エマが顔を青ざめる。


「ヤバいじゃん! ねえ、大丈夫なの?」


 心配そうな彼女を横目に、俺はブレツをタカさんへ任せて皆の前へと立った。

 深呼吸を一つして、全員の顔を順に見渡していく。

 タカさん、シガ、エリカちゃん、エマ、カズコ、ヒヰロ、トビト、イチゴ、アマツキ、ニコ、グレイ、ナノハ、セイラン、ムラタ、イコシ、オニヅカ、スミレ、サンゴ、ギンジロウ、クルミ、シンヤ、クワキノ、ワカツキ――。

 全員が揃って改めて気づく。

 ……結構、捕まっている人多いな、と。

 まあ、まだ逮捕されたわけじゃないけれど。

 しかし、それだけ濃密な25時間だったということだ。

 まるで何日も彼らと過ごしたかのような、それくらいの充実感と疲労感があった。

 すると、トビトが舌打ちしてから叫んだ。


「チッ……おい、時間がねえんだろ。だったら早く始めろ!」


 俺は慌てて口を開く。


「み、皆さん! 本日はお集まりいただき、まことにありがとうございま――」


 緊張のせいで声は上ずり、最後は噛んでしまった。

 せっかくの“探偵役”が台無しだ。


「それじゃ祝賀会の挨拶だろ? 探偵役なんだから、もっとどっしり構えなって」


 シガに茶化され、顔から火が出そうになる。


即興劇(エチュード)は苦手なんです」


 とっさに出た言い訳は、虚しい遠吠えにしかならなかった。

 するとエリカちゃんが、力強くうなずいて言う。


「大丈夫。ツムギくんの言葉で喋っていいんだよ」


 拳をグッと握って見せるその姿は、まるで授業参観の親のようで。

 気恥ずかしさはあったが、不思議と嬉しくもあった。


「……ゴホン。では、俺なりの推理を述べていきたいと思います」


 咳払いを一つして、俺は話し始めた。


「えっと、俺たちは昨日の午後一時に突然、このべインティシンコビル25階の展望フロアへと集められ、そして唐突にゲームが始まりました」


 ゲームの内容は――『25時間以内に25人の中から犯人を探し出す。時間内に見つけられなければ、25個の爆弾が爆発する』というものだった。

 大したヒントもない中、偶然“探偵役”となった俺にできることは、わずかな手がかりを見逃さず、皆の会話を一言一句聞き逃さないことだけだった。


「わけもわからず閉じ込められて、何が起こるわけでもないこの“ゲーム”を――皆さんは、どう思いましたか?」


 俺の問いかけに、皆が小さく首を傾げる。

 最初に口を開いたのは、エマだった。


「あたしは……“意味わかんない”って感じだったかな」


 それを皮切りに、他の面々も口を開いていく。


「俺は“面白いもんが始まったな”って思ったかな」

「え~! サンゴは“不気味で怖い”って思ったけど?」


 シガの意見にサンゴが反論する。彼女は隣のスミレに賛同を求めるが――。


「う、うん。そうだね」


 と、曖昧な返事が返ってくるだけだ。どうやらイチゴとトビトと一緒なのが気まずいらしい。

 そういえば、俺の知らないところで彼らにいざこざがあったと、エリカちゃんが言っていたな。

 続けてニコ、ナノハ、グレイが答える。


「ボクは今でも“イベント”なんじゃないかって思ってるよ。あのクズオヤジも、スタッフがわざわざ用意しやがったんじゃないかってね」

「そそそ、そうですよね! ぐ、偶然にしては関係ある人も混じってて、なんかふざけてて……あ、ふざけてなんて言ってすみません!」

「イヤイヤ、多少“おふざけ”がある方がイベントは盛り上がりマスからネ! ワタシはこの雰囲気大好きデス!」


 ナノハの視線はチラチラとムラタに向いていた。未だに罪悪感が拭えていないようだ。

 セイランが恐る恐る、小さな声で答える。


「ぼ、僕は……イコシさんが生み出した“魔法”かと、思ってました」


 『“魔法”などと突拍子もない』と洩らす者もいたが、俺は否定できない。

 あのガラス向こうにある“沈まない太陽”が、それを証明しているのだから。

 セイランの意見に同意するべくうなずくオニヅカとムラタ。


「自分もそう思ってましたよ。違う時空間に連れ出されたのかと……少しだけ神を信じかけました」

「……俺も似たようなもんだな。俺らは、”25なんたら教”が集めた供物だと思ってた」

「“25神妙教”だ! それとこれは我の力ではない! これは“25神”からの試練なるぞ!」


 イコシが二人に食ってかかるように叫んだが、すぐに息子からチョップを受け、素直に黙っていた。


「ともかく……オレはゲームなんてやらんからな。“ふざけた何かが始まった”と思ったな」


 タカさんが腕を組んだ。“ゲーム”という言葉に反応したのか、アマツキが続けた。


「手探りでクリアを目指すゲームはあるにはある……けど、知らない人からすればこれは”悪ふざけのドッキリ”にしか見えないだろうね」


 意見が一通り出揃ったところで、俺は改めて口を開いた。


「俺もそうでしたが、たいていはこのゲームを“悪ふざけのイベント”や“ドッキリ”だって思ってましたよね。けど――そんな中で“ただ一人”、それらとは違う意見を言った人がいたんです」


 そう言って、俺はゆっくりとその人物の方へと視線を向けた。




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