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 25年前の事件は、運命とも言えるような意外な形で幕を下ろした。

 ワカツキの処遇については、タカさんに一任されることとなった。

 ……まあ、間違いなく警察に突き出すことになるだろうが。


「にしても、俺の記念写真を盗んだやつは一体誰だってんだか……」


 ため息混じりにぼやくシガへ、俺は呆れ顔で突っ込む。

 

「そこは“脅迫犯”って言ってくださいよ」

 

 と、続けて俺はふと浮かんだ憶測をポツリと漏らす。


「……たぶんですけど、その犯人については何となくわかった気がします」


 俺の一言に、一瞬にして全員の視線が集まった。


「はあ? わかってんなら早く言え! 誰だよ一体!?」


 真っ先に食って掛かってきたトビトを宥めながら、俺は話した。


「あくまで憶測ですけど、脅迫犯は今の今まで、ワカツキ社長と接触するタイミングを逃し続けていたんじゃないかなって」


 脅迫犯は、直接一対一で話す機会を望んでいた。

 しかしシガのような行動力もなく、ワカツキが一人になるまで様子を見ているうちに、彼はブレツと一緒に秘密の部屋へ籠ってしまった。

 完全にタイミングを逸した脅迫犯は仕方なく、次のチャンスが来るのを待つしかなかった。


「この仮説でいくと、脅迫犯はチャンスが来るまでずっとこの隠し扉を監視していなきゃならない……と、なると、この近辺に籠もり続けていた人間は――」

「クワキノ、ということか」


 タカさんの言葉に俺がうなずくより早く、トビトが駆け出した。


「待ってろ、今連れて来てやる!」


 行動力極振りの彼は誰の制止も聞かず、あっという間にクワキノを引っ張って戻ってきた。

 ……あくまで憶測なんだから、ハズレていたら申し訳ないってのに。


「な、なんだよ……僕が何かしたとでも……?」


 呼び出された理由に心当たりはあるようで、クワキノの言葉にはすでに言い逃れの色が混じっていた。


――バンッ!


 突如、トビトがテーブルを叩いた。


「ネタは上がってんだよ……テメエ、このジジイを脅迫してたんだろ? ああ?」


 まるでチンピラの絡み方だ。見ているこっちが竦み上がってしまう。


「……俺の大事な思い出を、よくも汚してくれたよなあ? で、どこに隠してんだ?」


 なぜかシガまで恐喝に参加してきた。どう見てもこの状況を楽しんでいるだけだ。

 ……というか、そもそもシガが写真を落としたのが原因だってこと、忘れてないか?


「まあ待て、二人とも」


 冷静に宥めたのはタカさんだ。やはり年の功というやつか。いざというときは頼りになる――。


「オレが許す。そいつを脱がせ……!」


 違った。タカさんが誰よりも目をギラつかせていた。


「ちょ、ちょっと待て! 無理やりやったら訴えるぞ!」


 すぐにクワキノは逃走しようとしたが、唯一の通路は俺とエリカちゃんで塞ぐ形になっていた。

 逃げ場を失った彼にトビトが顔を近付ける。


「ああいいぜ、いくらでもオッサンを訴えな?」


 脅すときのトビトは本当にいい顔をしていた。

 そしてタカさんの命令を受けた二人は、クワキノの服を強引に剥ぎ――いや、身体検査を始めた。

 抵抗むなしく情けない悲鳴が響く中、俺は小さくなってエリカちゃんの目を塞ぐことしかできなかった。




「――あったぜ!」


 トビトが広げたのは、写真……ではなく、その拡大コピーだった。肝心の本物は出てこない。


「なぜこんなものを……?」


 俺が尋ねると、パンツ一丁で正座させられたクワキノは鼻で笑って答えた。


「わからないかな……こんな大金持ちが相手なら、搾れるだけ搾り取らないと。だからコピーをバラバラに破って、一切れずつ金と交換してやるつもりだったのさ」


 ……そんな、パズルじゃないんだから。


「じゃあ本物の写真は?」

「……家に保管してあるよ。無くしたら困るしね」


 どうやらシガは、宝物との再会はまだお預けになりそうだ。


「しっかし――よくこれがワカツキだってわかったな」


 シガが回収されたコピーをペラペラと仰ぎながら言う。

 確かにこのデジカメ写真は今ほど画質が良くなく、夜道の風景に溶け込んだスーツ姿の二人は、辛うじて誰だか判別できる程度だった。


「……猫のネクタイだよ」

「猫?」

「当時のワカツキ社長は、黒い噂を払拭するために娘の助言でコミカルな猫のネクタイをしていてね……それで覚えていたのさ」


 よく見ると、押し飛ばしている方の男性は、オレンジ地にピンクの猫シルエットがあしらわれたネクタイをしていた。

 確かにこの独創性ある一品は、個人を特定するには十分かもしれない。


「マジかあ、今の今まで気づかなかったなこれは」


 シガは自分の写真を取り出して目を凝らし見つめる。

 片やクワキノは遠い目をして語る。

 

「特注品だったらしくてね。猫好きとしては、ぜひともコレクションしたいと思っていたものさ」


 未だにそのネクタイの価値を覚えているあたり、さすがはコレクターといったところか。


「それと、もう一つ気になるんですけど……どうしてワカツキ社長を脅迫しようなんて考えたんですか?」


 クワキノは少しだけ沈黙した後、静かに口を開いた。


「……察しはついてるよね。何をするにも金、金、金の時代……研究費用が欲しくて、つい手を出しただけだよ」

「本当に、それだけですか?」

「しつこいね、君。それ以外で、こんな馬鹿な真似しないでしょ」


 そう言ってから彼は「フン」と鼻息を荒くし、視線をそらした。

 が、しばらくしてポツリと口を開く。


「……ただ一つだけ、頼んでもいいかな……?」


 少し考えたあと、俺は静かにうなずく。


「僕が捕まったら……猫を、代わりに引き取ってくれないかな……」


 その言葉に快諾――したかったが、俺は思わず目を見開いた。

 確かクワキノは、猫を25匹飼っていると言っていたはずだ。

 一匹や二匹なら何とかなりそうだが……それはさすがに多すぎる。


「ま、まあ……善処します」

「そうか、ありがとう」


 ようやく安堵したのか、クワキノはこれまでにない柔らかな笑みを浮かべた。

 クワキノの猫好きぶりがよく伝わってくる。

 おそらくだが、本当は()()()()に金が必要だったのだ。

 しかし――()()()()だと言われたくなくて、あえて言わないでいるのだろう。


(……だったら、最初から犯罪に手を出さなければよかったのに)


 クワキノは選択を間違え、結果として大切なものを失った。

 そう言ってしまうのは簡単だが、それが長い葛藤の末の決断だったのか、それとも短絡的な衝動だったのか、俺にはわからない。

 ただ一つだけ確かなのは、彼の言い知れぬ後悔が、こちらにも伝わってくるということだ。

 ……もしかしたら、パンツ一丁で正座させられていることへの後悔かもしれないが。




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