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残り01時間40分29秒




「タカさん!」


 通路の先――そこには、まるでホテルの一室のような空間が広がっていた。

 八畳ほどの広さに、簡易なキッチンとベッド。そんな謎の部屋の中央で、タカさんが床に倒れ込んでいる。

 そして彼の前に立ちふさがるのは、敵意むき出しの大男と、その奥に佇む小太りの初老男性だった。


「よくここまで辿り着いたな……犯人どもめ」


 ……なぜ俺たちが犯人?

 困惑している間にも、大男は鋭い目つきで構えを取る。今にも襲いかかってきそうな気配だ。


「エリカちゃんは、俺の後ろに!」

「うん……!」


 素直にエリカちゃんが俺の背後に隠れる。ついでにシガまで俺の陰に隠れてきた。

 あとから駆けつけたトビトも目の前の状況に驚いていた。


「……あのオッサンを瞬殺したとか何者なんだ、あのヤロウ」

「いや、死んではいないけどね」


 トビトはすぐさま身構えたが、相手との体格差は歴然だ。

 あんな大男を相手にして勝てるかどうか、アマツキでもわからない。

 すると初老男性が声高に言った。


「ハッハッハ! この男は総合格闘技のミドル級で“世界ランキング25位”を取ったことがあるんだ! お前らごときに倒せるわけがない!」


 世界25位……それってすごいのか?

 反応に困っていると、背後のシガが目を見開いて叫ぶ。


「ってことはまさか……武烈(ぶれつ) 藍鉄(あいてつ)か!?」

「有名人なんですか?」

「ああ、世界にその名を轟かせた格闘家だ……まあ何年か前、ケガで引退したはずだがな」


 ようやく満足な反応が返ってきたからか、大男の後ろに隠れる初老男性が不気味に笑う。


「現役じゃなくても世界屈指の強さは健在だ! さあブレツ、犯人どもを捕まえろ!」

「はあ? 何わけのわかんねえこと言ってんだテメエ!」


 初老男性の高笑いに、トビトが怒声を上げる。

 ……確かに何故俺たちが犯人なのか、ここは感情的にならず話を聞いた方がいい。


「ちょっと待ってください! まずは話し合いを――」

「黙れ! 先に卑怯な真似をしたのはお前たちだろう! 話し合いの余地などない!」


 まるで聞く耳を持たない。完全に俺たちを敵と決めつけている。

 すると、初老男性は懐から札束を取り出し、こちらへばらまいた。


「ほら、これはとりあえず手元にあった“25万”だ! 残りは、このふざけたゲームを終わらせたらくれてやる!」


 突然の札束に、俺たちは困惑するしかない。

 ……っていうか、25万って中途半端すぎないか?

 そんな中、シガはちゃっかりと舞い落ちた万札を拾っていた。


「ゲームはちゃんと終わらせます。けど、そのためにはあなたたちの話を聞かせてもらわないと!」


 俺の言葉も虚しく、初老男性はブレツに命令を飛ばす。


「ブレツ! 早くしろ!」


 その号令と同時に、ブレツの手が蛇のように伸びてきた。

 絡め取るような動きで俺たちに迫る。

 エリカちゃんだけは守らなきゃと身構えた、そのとき――。




「――すまん、大丈夫か!?」

「タカさん!」


 タカさんが俺たちの前に立ちはだかり、ブレツの拳を受け止めていた。

 頬は青黒く腫れ、鼻血が生々しく滲んでいる。


「って、タカさんの方こそ大丈夫ですか!?」

「問題ない。身体は頑丈な方でな」


 鼻血を拭いながら、タカさんは力強く言った。


「この男の相手はオレに任せろ」

「でも、相当強い相手らしいですよ!」


 アマツキを呼んで加勢した方が――そう考える間もなく、タカさんとブレツは組み合い始めた。

 互いの服を掴み、力比べのような攻防。まるで柔道の試合だ。


「体格的にはブレツの方が有利だな……おっさん、まずいかもな」


 シガが背後で呟く。


「でも、きっと必勝法とか考えてるんじゃ――」

「いや、そういうの考えるタイプに見えるか?」


 シガの言葉に不安が押し寄せる。

 案の定、戦況は変わり、今ではブレツの一方的な打撃にタカさんが押され、防戦一方になっていた。


「タカさん……!」


 タカさんも鍛えているとはいえ、ブレツのパワーは圧倒的だ。

 重いパンチの連打に、見ているこちらが倒れそうになる。

 だが、俺は不意にブレツの“ある違和感”に気づいた。


(……なんだ? ブレツの動き、時々キレがない?)


 素人目でも、ほんの一瞬だけ動きが鈍るのがわかる。

 それを察したのか、次の瞬間、タカさんが動いた。




 ブレツのパンチを紙一重で避け、そのまま低く屈み込んで腰へとしがみつく。


「うおおおおお!!」


 雄叫びと共に勢いよくタックルしたタカさんは、ブレツのバランスを崩した。

 すかさず羽交い締めされ、逃げ場を失ったブレツはやがて地面をタップした。


「や……やった!」


 沸き立つ歓声の中、タカさんは冷静に言った。


「右足を庇っていたな……卑怯かもしれんが、そこを突かせてもらった。悪く思うなよ」


 それに対し、ブレツは小さな声で応じた。


「……これは試合ではない、弱点を突くのは当然だ。構わん」


 そう漏らす彼の顔は、潔く敗北を認めた格闘家のものだった。




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