表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/40

残り14時間10分23秒


 誰一人怪我することもなく、イコシたちを拘束し終えた俺たち。

 ――とはいえ、一番の功労者はアマツキだろう。

 あんな一瞬の芸当、ただの高校生に出来るとは思えない。


「すごいねアマツキくん。柔道か何かやってたの?」

「まあ……それなりに」


 言葉少なげに答えるアマツキ。

 ムラタを引き渡す彼に、タカさんが眉をひそめつつ忠告をした。


「今のは一歩間違えば危険な行為だ。素人が独断でやっていいものじゃない……だが、人質を無傷で解放できたことには感謝する」


 続いてシガが、拾ったスマホをアマツキへ返しながら笑う。


「相手の注意を引くために、まさかスマホを投げるなんてね。君の商売道具だろうに、大胆だねえ」

「……いや、別に。それはバッテリー切れした練習用スマホなんで……まあいいかと」

「練習用?」


 するとアマツキはポケットから更に二つのスマホを取り出した。


「……ゲーム用と、その練習用と、連絡用」


 こんなにスマホを持ち歩く人は俺の周りにはいないから、思わず目を見張った。

 ……さすがは25連勝中のeスポーツ選手だ。


「それに――元野球選手なら絶対キャッチしてくれると思ったんで」


 ぽつりとアマツキが口にする。

 確かにムラタは、体が勝手に動いたのか、見事に投げられたスマホをキャッチしていた。

 そこまで考えて行動していたとは……改めてアマツキの格好よさに感嘆する。


「クソッ! 選手を辞めて何年も経つってのに……体が勝手に動いちまった。野球で人生詰んだ俺が、また野球に邪魔されるなんてな……」


 自嘲気味に語るムラタ。

 鋭い眼光をこちらに向け、吐き捨てるように言った。


「哀れみの目で見るな。同情はいらねえって言っただろ……!」


 拘束され、より一層自暴自棄になっているようだ。

 それでも何か言葉を掛けたかったが、結局浮かばずじまいで。

 だが、そんなムラタへ意外な人物が近づいていった。


「あ、あの……その人、元野球選手の……ムラタさん、なんですか?」


 ナノハだった。

 彼女は恐る恐るムラタを見つめている。


「そう、だが……?」


 もしかして、こんな場で偶然ファンと遭遇か?

 と、一瞬思ったが違った。

 ムラタと知るや否や、ナノハは顔を青ざめさせて――。


「……ご、ごめんなさあぁぁい!」


 土下座した。しかもムラタに向かって。

 一体何がなんだと困惑する俺たち。

 さすがのムラタも開いた口が塞がらない。


「えっと……何がどう、ごめんなの?」


 俺が問いかけると、ナノハは涙を浮かべて告げた。


「わ、わだじが……あんながぎごみじだがら――」


 彼女の話を訳するに、かつてムラタがSNSで炎上したとき、ナノハも誹謗中傷を書き込んでいたらしい。


「ず、ずどれずはっざんだっだんでず……ほがのじどもがぎごみ、じでだがら……ぢょっど、でぎごごどで――!」

「“ストレス発散だったんです。他の人も書き込みしてたから……ちょっと出来心で”と言ってマース!」


 涙で言葉にならないナノハの代わりに、何故かグレイが通訳する。


「まざが、ムラダざんがごんなごどなっでるどおぼわだぐで……ほんどうに、ごべんだざい……!」

「“まさかムラタさんがこんなことになってると思わなくて、本当にごめんなさい”と言ってマスネ!」


 額を床に擦り付けながら必死に叫ぶナノハ。

 ネットの誹謗中傷なんて、背を向けている人に投石するようなもの。当たった人が振り返ったところで、誰が投げたかなんてわからないままだ。

 それなのに、素直に名乗り出て謝ったことは立派だと思う。

 ……まあ、そもそも中傷したのが一番悪いのだから、褒めることは出来ないけど。


「……もういい」


 ムラタが小さく呟いた。


「確かにあの炎上に加担したってなら許したくはねえ。けど、さっき兄ちゃんが言った通り、落ちぶれたのは俺の責任だ。アンタだけを責めるつもりはねえ」


 その顔を上げてくれりゃ、それで充分だ。

 そう言ったあと、ムラタは黙り込んだ。


「――良かったデスネ! お許しいただけましたヨ!」


 一人はしゃぐグレイに対して、ナノハは呆然としていた。

 もっと罵られると思っていたのだろう、ぽかんと口を開けたままだ。

 涙も鼻水もそのままにナノハが呟く。


「書き込みのこと、ずっとずっと後悔してて……いつか謝罪出来たらって思ってたけど……まさか今出来るとは、思わなかった、です……」


 ムラタと知るや否や即座に頭を下げていたところからして、本気で後悔していたのだろう。

 ムラタも意外な謝罪に怒りの矛先を失ったのか、黙って拘束されたままだった。


「まあ、色々あったが……イコシの乱はこれにて一件落着、ってところだな」


 シガがそうまとめ、陽気に笑った。

 笑いごとじゃない、と俺は諌めようとする――そのときだった。




「……え?」

「――え」


 そこに、ナイフを持った男が一人立っていた。

 誰も気づかなかったが、確かにそこにいた。

 ナイフ男も”今気づかれた”ことに驚いているようだ。


「えっと、おたくはどちら様で……?」


 一番近くにいたシガが尋ねる。

 確かに、このナイフ男はまだ会っていなかった顔だ。

 ナイフ男はその凶器をシガに向け、激しく振り回す――なんてことはなく。


「……す、すんませんでしたあああっ!」


 ナイフを捨て、潔く土下座したのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ