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残り24時間35分01秒


 あどけない少女とはいえ、助手役を手に入れた俺。

 だが、ふとした疑問が過ぎり、彼女に質問した。


「そういえば、エリカちゃんは家族とか一緒じゃないのかな?」


 エリカちゃんは黙ったまま俺を見つめた。

 このべインティシンコビルは観光向けの展望フロアとレストランフロアが売りで、それ以外はホテルとオフィスのみ。

 子供が一人で来るには、どう考えても不自然だ。


「ううん……」


 小さく首を振る。


「わたし一人だけ」

「えっ、迷子とかじゃないよね?」


 思わず声が上ずるが、彼女は答えずに周囲を見回した。


「それよりも……周りを見て」


 ……()()()()()って、結構大事な話なのに。と思いつつ。

 エリカちゃんの言葉に俺も視線を巡らせた。


「あれ、人が減ってる?」


 先ほどまでは二十人くらいいた人数が、いつの間にか減っていた。

 今は俺たちの他に数人くらいしかいない。


「もしかして、皆消されたとか……じゃないよね!?」


 慌てて周囲を見回し直す俺。

 と、そんな俺を見かねたのか、やたら大きな一眼レフカメラを抱えた男性が言った。


「他の連中は非常口を見てくるやらトイレに行って来るやらでいなくなってるだけだってさ」


 エリカちゃんも賛同するように小さくうなずいていた。

 男性から漂うタバコ臭。強すぎるせいで、エリカちゃんは思わず顔をしかめている。

 いかにも“胡散臭そう”な男性だと思ったが、それは内緒だ。


「あー、今俺のことを胡散臭そうだって思ったろ? そういうの分かっちゃうんだよなあ、勘は鋭いほうだから」


 と、思ったら図星を言い当てられた。


「ま、俺自身も『胡散臭そうなおじさん』だって思ってるんだけど」


 ……自分でも思ってるんだ。

 思わず心の中で突っ込む。


「だからさ……俺が疑われる前に、身の潔白を証明しとこうと思ってな」


 そう言うと胡散臭そうな男性はポケットから名刺を取り出した。


「カメラマン、志賀(しが) 朝士(ちょうじ)さん……」

「そうそう。その界隈ではまあまあ名は売れてる。気軽に“シガ”って呼んでくれ」


 志賀朝士——もとい、シガはそう言ってウインクしてみせた。

 案外ノリの良いおじさんではあるようだ。


「ちなみに、このビルには新しい写真集の題材探しで来てた。これで俺の説明は充分か? 探偵くん」


 くすぐったくなるような肩書きで呼ばれ、俺は眉をひそめる。


「俺は“探偵”でもないし、“くん”付けされるような歳でもないんですけど…?」


 ふとエリカちゃんを一瞥すると、彼女は閃いたと笑みを浮かべて言った。


「それじゃあ“ツムギくん”って呼んでもいい?」

「ええっ? “探偵くん”より子供っぽい気が……」

「だめ……?」


 ……そんな寂しそうな表情をされたら、否定なんか出来ない。

 俺は軽く肩を落としつつ「わかったよ」と言った。


「結構チョロそうだなー、“ツムギくん”は」


 おじさんの濁った声が横から聞こえてきたが、俺は聞かなかったことにした。




 俺たちが談笑していると、突如、フロアの奥から叫び声が聞こえてきた。

 

「ダメだダメだ! エレベーターはどうやっても反応しないし、非常階段のドアもびくともせん!」


 小太りでいかにも偉そうな初老男性が叫ぶ。


「他にこのフロアから出る方法もなさそうですし、スマホも圏外となると……救出を待つしかなさそうですね……」


 隣にいた気弱そうな初老男性は、しきりに汗を拭いながら相づちを打つ。


「そんな悠長に考えていて良いのかね? さっきの放送も一般的なテロとは少し違う……口に出したくはないが、非現実的なことが起こっている可能性も考えられるよ……」


 二人の後ろを歩く中年男性は、黒ぶち眼鏡を何度も押し上げ、ねちっこく話していた。


「なんだか濃い人たちだな……」


 そんなぼやきが思わず口から漏れ出てしまった。

 するとシガが周囲に視線を促すようにして言った。


「あんな連中で胃もたれしてるヒマはないぞ、ツムギくん」

「胃もたれって……」


 シガに釣られるように、俺は周囲に目を配らせる。


「キャアアーッ!! ニュニュニュ、ニューチューバーの25(ニコ)さんですよね!! わ、私、大ファンなんです! “もこもこさん”ってアカウントで、応援してるんです!!」

「あー……もこもこさんね。うん、もちろん覚えているよ。いつもボクの動画を見てくれてありがとう」

「キャアアッ!! キャアアーッ!! 生スマイル貰っちゃったーー!!! も、も、もうこのままビル爆破されてもいい……」


 甲高い声で騒ぐ熊のような体格の女性と、絶対内心では困った顔をしているだろう銀髪に赤メッシュのイケメン。


「イヤハヤ、面白いことになっちゃいましたネ! こういうゲームは参加者同士の協力が重要……と、思わせて最後の裏切り行為が面白いんですよネー」


 カタコトの日本語で楽しそうに語っている外国人男性。

 しかも()()()という怖いワードをさらっと言ってくれている。


「ねえ、スミレくんがこんなとこ行こって言うからヤバいことに巻き込まれちゃったじゃない!」

「だーいじょうびだって! なんかあったらオレがちゃあーんと守ってあげるからさっ」

「ホントに? ちゃんと……責任とってくんなきゃヤダからね!」


 更にその奥ではイチャイチャしているカップルの騒がしい声。


「あああああ! 天よ! 我が神よ! これが我々に課した試練ということでしょうか!!」


 仕舞いにはいかにもヤバそうな宗教の教祖っぽい外見の男がずっと何かを叫んでいた。


「………」


 その一方、この騒動の中、全く一言も喋らずにゲームをしている少年の姿もあった。

 まるで世界中のソースをミックスしたような、様々な人たち。そんな彼らを眺めた後、改めてシガは意地悪く笑って言った。


「あんな連中一人一人から話を聞かなきゃならんとは、ツムギくんには同情するよ」

「そう思うなら、少しは手伝ってくださいよ」

「情報提供はしてもいいが、助手はメンゴ。その方が()()()()だからな」


 ……普通そういうのは言葉を濁すものですよ。

 そう突っ込むよりも先に、シガが話を続けた。


「それに、可愛らしい助手ちゃんがいるんだから…俺があれこれしゃしゃり出るのは野暮だろ」


 そう言われては何も言い返せない。

 俺は何となくエリカちゃんを見つめた。

 エリカちゃんは真っ直ぐに俺を見つめており、『任せて』と言わんばかりの輝きを放っていた。

 

(子供に助手なんて勤まるのか、正直疑問なんだよなあ……けど、癒し枠は必要だしまあ、いいか)


 そう思った俺は気を入れ直すべく、探偵役らしさを出すようにと作業着の襟を立たせてビシッと決めた。


「ツムギくん、かっこいい」

「意外とやる気あるじゃん、ツムギくん」

「そりゃあ当然ですよ。こんな悪ふざけしかないゲームはとっとと終わらせないと!」

 

 俺は気合を入れて早速、探偵役として犯人捜しへと動き出した。



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