残り20時間35分14秒
スミレを原因とする騒動がようやく収まると、イチゴと“トビくん”と呼ばれていた男性は静かなところへと去っていった。
今は彼女を落ち着かせる方が先決だし、それまでは聞き取りもしない方がいいだろう。
「あーあ……なんだかんだで、あの二人は絶対ハッピーエンドよね。サンゴもあんな王子様に巡り合いたいわ~」
「……間違ってたらごめん。サンゴさんのツンデレって、演技だよね」
不躾な問いを投げかけると、サンゴは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「あ、バレちゃった? スミレくんは全然気付かなかったのに」
「いや、何となくだけど……今の方が生き生きしてる気がしたから」
というより、あんな酷い相手を振ったからか、むしろ今とても晴れ晴れとして見えた。
「だって、サンゴが“本気の可愛い”で攻めたら……みんな即落ちちゃうでしょ?」
ウインクしてみせる姿は確かに愛らしい。まさか男だとは、とても思えない。
「それにツンデレキャラと付き合ってくれる彼氏って、本気で愛してくれそうって感じするじゃない?」
……そういうものなのか。俺には正直、理解しきれない。
「……だからね、スミレくんが本気なのはわかってた。だからこそ余計に“男の娘”だって打ち明けにくかったの。結局サンゴもさっきの子と一緒ね、25股クズだって知っても、心のどこかでスミレくんを信じたくなる――ついついそう願っちゃうのよね」
あんなクズなのに……いや、25人と同時に付き合おうとするクズだとしても、彼のわからない魅力が彼女たちを盲目にし続けるのだろう。
中には、浮気されていると知りつつ、あえて目をつぶって付き合い続けた人もいたのかもしれない――と、そんな考えがよぎった。
「……まだ好きなら、やり直すのもアリなんじゃないかな」
「え?」
我ながら無責任なことを口走ったと思う。冷たい視線が飛んできて、慌てて言い訳を並べた。
「あー……ほら、彼も“本気だった”って言ってたわけだし。これまでの二人の愛は確かだったんだから、ちゃんと話し合って……もう浮気しないよう契約書かせるとかして、やり直して……」
てっきり、「バカ言うな」と否定されると思った。
だがサンゴの瞳は、まるで天啓を得たかのように燦々と輝いた。
「それいいかも! サンゴがちゃんと見張ってあげれば、浮気なんてさせなきゃいいんだ! サンゴだけを受け入れて愛してくれるよう説得してくる!」
サンゴは「ありがとねー」と手を振って早々と去っていった。
……とんでもないヤンデレかメンヘラを生んでしまった気がしてならなかったが、あの二人の行く末について俺が知ることではない。
するとエリカちゃんはまたもやポツリと言った。
「たぶんあのお兄さん、もっと大変なことになりそうだね」
「……それってカン?」
俺の質問にエリカちゃんは真顔でうなずいた。
サンゴが立ち去ったちょうどその頃、入れ替わりでタカさんとシガが戻ってきた。
向こうも相当な修羅場だったのだろうと思っていたが、シガは心底がっかりした顔をしていた。
「それがなあ、あの兄ちゃん、父親を前にしたらいきなりビビッちまってさ~」
グレイとナノハに後押しされても、二コはすっかり尻すぼみになり、結局は名乗り出なかったらしい。
「『あんなイカれた格好のジジイの息子だなんてカミングアウトするくらいなら、死んだ方がマシ』とか強がっちゃってな」
……少しだけ、気持ちはわからなくもない。
イコシの奇抜なあの外見が、嫌でも脳裏に過ぎる。
シガはため息交じりに椅子へと腰を下ろした。
「で結局、最後まで近くで様子を窺ってただけ。まったく、とんだ茶番だったぜ」
タカさんは腕を組み、深く頷いた。
「まあ、言うてやるな。二十年ぶりの再会らしいからな。緊張するのも無理はない」
「はいはい。で、そっちは進展あったのか?」
そう問われ、俺は思わず疲れ切った顔になった。
それから先ほどの一件を説明すると、シガは悔しそうに顔を歪めた。
「うわー! 絶対そっちの方が楽しそうだったろ!」
「そんな言い方しないで下さいよ。傷ついてた人だっていたんですから」
俺が諫めても、シガは興奮したまま地団駄を踏む。
もしあの場に彼がいたら、間違いなくシャッターチャンスとばかりに撮影を続けていたことだろう。
……どうやら、人の困った顔を撮るのがこの人の性分らしい。
「とにかく、何とか丸く収まったんですから、これ以上は余計な刺激しないでくださいよ?」
「当然。俺は記者じゃなくてカメラマンだからな。めんどい取材はしないって」
シガはそう言いながら、火を付けないままタバコを咥える。
「さて……聞き取りも順調だ。ここらで一息入れておこうか」
俺が答えるより先に、シガが挙手して同意した。
「さんせーい」
外はまだ明るいようだが、神経を使ったせいかやけに腹が減っていた。
「ここって何か食べ物、置いてなかったかな……」
俺が小さく呟いた、その時だった。
「――あ、あの」
そう言って俺たちの前に姿を見せたのは、セイランだった。
「セイランくん? どうかしたのかい?」
彼にはまだ“25”関連について聞けていなかった。
後で聞きに行かなくてはと思っていた矢先に、まさか向こうからやって来るとは。
「……実は、気になることがあって」
セイランは真剣な表情で言った。
「気になること?」
周囲を気にしつつ、俺の耳元に小声で囁く。
……だが、他のみんなはしっかり聞き耳を立てていた。
「二つあるんですけど……ひとつは、爆弾の場所がわかったかも、しれないんです」
思いがけない報告に、俺たちは一斉に目を丸くし、セイランを見つめた。




