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残り20時間50分13秒

 サンゴの脅しでスミレの姿が消えると同時に、彼女は深いため息を吐いた。


「あーあ……サンゴ、失恋しちゃった。()()は守ってたけど、結構本気だったのにな……」


 寂しげな声から、本気だったのだろうと察せられる。

 すると、Kがポロポロと涙をこぼしながら言った。


「あ、貴方はまだ……いいじゃないですか……私は、あんな……男に、っ……」


 語るまでもなく、その悔し涙がすべてを物語っている。

 エリカちゃんの目元をようやく解放した俺は、とりあえず持っていたハンカチをKに差し出した。


「あの……こんなときに、ですけど……貴方は彼の真相を突き止めるために変装までして、このビルに来たんですか?」


 Kは静かにうなずいた。


「付き合って半年だったけど、気付けばクリスマスも年末年始も十分くらいしか会えなくなってて……だから不安で、ネットの友達にスマホのパスワードの探し出し方を教えてもらって」


 それだけでも充分濃い内容なのだが、詳細には聞かず。俺は真剣に耳を傾けた。


「それで、前回のデートのときにスマホを見たら……あんなものが出てきて。そのときはショックで問い詰められなくて。だから彼を尾行して、ここでデートするって知って……」

「で、サンゴとのデート中に突撃しようと思ったの? 結構行動力あるじゃない」

「違うんです! 私はただ、事実を受け止められなくてどうしても確かめたくなっただけです……それで、『本命は君だよ』って言ってくれれば、なんて変な期待までしてて。でも結局、謝ってもらうことすら出来なかった……」


 ハンカチで涙を拭き、泣きじゃくるK。その声はフロア中に響いた。

 傷心の彼女にどう声を掛ければいいか困っていると、ふと、ここへと近づく足音が聞こえてきた。


「……それはサンゴが謝る暇を与えなかったから。ごめんね」

「貴方が謝る必要はありません! 私が、バカだっただけです……何も知らない田舎者が、大学生活に浮かれてバカを見ただけなんです――」


 震えるKは、静かにカバンからカッターを取り出した。


「え……キャーッ!」


 サンゴの悲鳴が響く中、Kはカッターを首筋に当てる。


「あんな人のせいで汚れてしまった身体じゃあ……もう立ち直れそうもないです……さようなら」


 突然の凶器に、俺は頭が真っ白になって直ぐには動けなかった。

 俺がぐらりと眩暈のような感覚に襲われるうちに、Kはカッターに力を込めた。


「や、やめ――」




「――それやったら、本当にバカで終わるぞ。テメエは……」


 だが、カッターは近づいていた足音の主——背後から飛び出てきた男性に一瞬で奪われた。

 その男性とは、最初に“探偵役”について文句を言ってきた、あの金髪の男性であった。


「え……ま、まさか……トビくん?」


 彼女の言葉に、俺も目を丸くした。

 あの二人はどうやら知り合いのようだ。


「テメエは確かに、田舎にいた頃よかだいぶ変わっちまったようだが……人が嫌がることにも率先して手を差し伸べられる優しさは何も変わってねえだろ!」


 彼の怒声で、先の記憶が蘇る。

 確かにKはセイランの吐瀉物を率先して片付けてくれた。間違いなくいい人だ。


「俺は、そんな優しいテメエが、こんなバカなことで死んでほしくはねえよ!!」

「で、でも……私は、あんな男に、たくさん騙されて弄ばれて捨てられて……」

「そんなの関係ねえだろ! 俺は……どんなテメエでも、イチゴを……ずっと、好きでいられるぞ!!」


 男性はそう言って、イチゴと呼ばれた彼女を抱き締めた。

 その拍子にカッターは宙を舞って俺の手元へ。

 ……いや、これ、刃が当たっていたらどうするんだよ。

 俺の心情をよそに、二人は会話を続ける。


「う、うそ……だって、トビくん。今までそんな素振り見せたこと……」


 男性の顔が一瞬にして赤くなる。


「んなもん、見せられるかよ! は、恥ずかしいだろが……!」


 するとサンゴがニヤニヤしながら言った。


「あー……つまり、アンタもサンゴと同じツンデレタイプってこと? 辛いよねー、ツンデレって。大事なとこで素直になれないから」


 サンゴに茶化された男性はさらに顔を真っ赤にして、獣のように睨む。

 だがイチゴへの愛を示すように、その抱擁はやめなかった。


「ト、トビくん……く、苦しい……」


 抱擁が少し強すぎたのか、イチゴにタップされると、彼は慌てて離した。

 お互い顔を赤らめたまま、見つめ合うことはない。


「あの……俺が言うのもなんだけど、こんなに君を思って止めてくれる男性がいるんだからさ。もう終わりだなんてこと、全然ないよ……ね?」


 俺は慎重に言葉を選んで投げかけた。

 そうしないと、男性の睨みが嫉妬心(別のもの)に変わりそうで怖かったからだ。


「……はい、ご迷惑をお掛けしました」


 涙を拭い、イチゴは小さく頷いた。




 短時間で想像以上の展開が連続で起こり、俺は思わず唖然とする。

 正直なところ、終始『俺は一体何を見せられたのだろうか』という気分だった。

 それと、勢いで告白していた男性の言葉に、イチゴがちゃんと返答していないことも気になったのだが。

 まあ、今それについて追究するのは野暮だろう。


「はぁー……俺も早く、さくらに会いたいな……」


 人知れず、俺はため息混じりに本音を漏らした。




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