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残り21時間40分10秒

 ムラタから離れた俺たちは、先ほどまでいたエレベーターホール前へと戻って来た。

 気付けば、なぜかアマツキも一緒について来ていた。


「……いや、俺も一応スポーツ選手だから。ああいう話聞くと、胸が痛むっていうか、察したくなるっていうか」


 自分もいつか、あんな未来に行き着いてしまうのではないか――。

 同情と不安からくるその気持ちは何となく理解できる。


「そういえば、アマツキくんはどうしてこのビルに来たんだい?」


 ふと、彼にその質問をしていなかったことに気づき、尋ねる。

 アマツキは頬を掻きながら答えた。


「俺もあの人と似たようなもんで……。25連勝中なんて肩書きがついたせいで、いつもプレッシャーとの戦いで。そういうのに押し潰されそうになると……気分転換でここへ上るんです」

「このビルに?」


 彼はおもむろにガラスの向こう、街並みを見下ろす絶景へ視線を向けた。


「この光景を見ていると、色んな喧騒から切り離されたみたいで……不思議と落ち着くんです」


 その横顔に嘘はなさそうだった。

 “星を見に来た”というよりも、ずっと現実的で納得できる理由に思えた。


「そうか。この辺りは比較的静かだし、休むにはいい場所だよ」


 俺の言葉にアマツキは静かにうなずき、壁際へ腰を下ろした。




 アマツキの聞き取りを終え、ひと息ついたところで、ようやくタカさんが戻ってきた。


「遅いっすよ、タカさん」

「すまんすまん! だが出すもんは全部出してきた。もう大丈夫だ」


 どこかゲッソリした顔。……羊羹で食あたりなんて本当にあるんだなと、思わず痛感してしまう。


「それで、どこまで進んだ?」

「あれから更に四人は聞き取りできました」

「残り十二人か。折り返しに入ったな。思ったより順調でなによりだ!」


 そう言いつつも、タカさんの顔色が、腹痛抜きにしても浮かないように見える。


「何か気になることでも?」


 尋ねると、彼は「大ありだ」と即答した。


「いや、クソしてる間に考えてたんだが――」

「タカさん。子供もいるんですから」

「ああ、こりゃあ失敬。……お花摘みしてる間に考えたんだが」


 仕切り直し、真顔のまま語る。


「やはりこの”ゲーム”には、“25”という数字が特別な意味を持っている気がしてだな」


 25の神を崇拝するイコシ。

 25匹の猫を飼うクワキノ。

 25連勝中のアマツキに、背番号25を背負っていたムラタ。

 ――先ほど聞き取りした四人も奇妙なことに、”25”と関わりを持っていた。


「犯人捜しとどう結びつくかは不明だが、提示された情報があまりに少ない以上……今後は”25”に絡む事情も聞き出した方がよさそうだな」


 それは俺も思っていた。

 “犯人を探せ”とアナウンスは言ったが、まったくヒントはなく。何を手掛かりにすればいいのかさえ曖昧だ。

 そんな中で出てきた“25”は、ようやく見つけた重要な鍵のように思えた。


「ははっ。イコシの言う通り、本当に25の神が俺たちを集めて遊んでいるとかって話だと笑えるけどな」


 冗談めかして肩をすくめるシガ。


「間違っても25神妙教に入らないでくださいよ。あの人たち、終末論に抗うために自らを捧げるなんて物騒なこと言ってましたから」

「さすがに入らないって」


 俺の忠告に、シガはもう一度肩をすくめた。




 25に関する事情を聞き出す。

 文字にすると意味不明なことを書いているようだが、それがこの“犯人捜し”の本題に近づく鍵だと感じ、俺の胸にまた一層やる気が湧いた。


「そういえば、タカさんの“25”に関係する事情、まだ聞いてませんでしたよね?」


 さっき「25年前……」で話が止められてしまったままで、ずっと気になっていた。


「そうだったな! あれは今から25年前……オレがまだ刑事をしていた頃の話だ」


 遠い目をして、タカさんは語り出した。


「当時、オレは上司の警部とともに、とある週刊誌記者の殺害事件を追っていた。深夜の路上で、何者かに襲われたという事件だ。目撃情報も乏しく、捜査は難航していたが……警部は被疑者を絞り込んでいたようだった」


 しかし、その警部はタカさんに何も告げず、単独で被疑者と接触しにいったという。


「何で話さなかったんですか?」

「『証拠が乏しいうちにお前に教えたら、勝手に捕まえに行くからダメだ』と言われた。昔のオレは血の気が多かったからな!」


 豪快に笑うタカさん。だが続いた言葉は重かった。


「だが、昔気質な警部の方が血気盛んでな。『相手も相手だし、まずは説得だ』と言って出て行き……そして、戻ってきたときには遺体になっていた」

「えっ!?」

「交通事故に遭ったらしい。運転手の証言では『誰かに押されたように道路へ飛び出した』という話だったが……結局、見間違いとして処理された」


 タカさんは真剣な眼差しで俺を見据えた。


「記者の殺害事件も未解決のまま、さらには警部の死も強引に事故扱い。オレは確信した。裏で糸を引く“大物”が黒幕だ、と……警部もそれを見抜いていたからこそ、もしものときオレを巻き込まないよう黙っていたのだろう……気付くのが遅すぎたがな」


 25年前の事件――。

 あまりに重すぎて、言葉が出なかった。

 だがタカさんは、にかっと笑ってみせる。


「だから俺は刑事をスパッと辞め、独自に真相を追うことにした……が、未だ犯人には辿り着けていない。まあ、オレの頭脳では仕方がないんだがな!」

「……あの、思った以上に重い話で、どう言葉を返していいか……」

「気にするな。ツムギが気に病むことではない。それに今はこっちの犯人捜しに集中しないとな!」


 そう言って俺の肩をバンバン叩き、笑い飛ばす。

 気合いを注入するかのような一発に、思わず俺は苦笑した。


「オレの“25”関連はこんなところだ。ちなみに……ツムギは25歳だからとして、シガは25冊目の写真集を出そうとしていたな」

「アンタに比べりゃ、俺の25は、かなりちっぽけに感じるがな」

「――で、そうなると。エリカちゃんは何か25に関することはあるかい?」


 視線を向けられたエリカちゃんはうなずき、リュックから何かを取り出す。


「スケッチブックと……色鉛筆?」


 可愛いペンケースの中には、色とりどりの色鉛筆が入っていた。


「普通は二十四色辺りなんだが……25色持ってるとは珍しい」


 シガが感心したように言う。というか、一瞬で数えたのか?


「この薄紫が好きなの。でも三十六色だと多すぎるから……薄紫色は別で買ってもらったの」


 そう言って彼女は、薄紫の色鉛筆を掲げてみせた。


「それを持ち歩いてるのはどうして?」


 俺が尋ねると、彼女はガラス窓の向こう――景色を指差した。


「絵を描きに来たの。そういう宿題だったから」

「なるほど」


 俺たち三人は、誰からともなく顔を見合わせた。


「この25は……アリなんですか?」

「正直わからん」

「いや、俺の25冊目がアリならアリアリだろう」

「彼女の年齢だと、他に関連づけられる話題もないだろうしな…」

「あれ、俺の話無視してる?」


 話し合った結果、エリカちゃんの“25”はそれで良しと決まった。


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