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夢紀

作者: 日和
掲載日:2025/11/30

 場所は母校西大和中学、高校3年の私、武蔵。体育館での朝礼終了後、目を奪われた。濡れているような耳下までの髪、高い鼻に薄い唇、瞳は墨のようだ。咄嗟に近づき、告白をした。君は何も答えない。

怖くなった私はこう言う。

「返事は後でいい。」

続けて言う。

「昼に一緒にお弁当を食べないか。」

私は自分の大胆さに驚き、赤くなる。同時に拒絶された時の絶望感が襲ってくる。君は言葉を発しず俺を見る。私は期待と恐怖で胸がいっぱいになる。

「嫌だね。」

澄み切った声がして、私は絶望した。君は私を馬鹿にして笑っていた。

「嘘だよ、食べよ。」

君の声で私の絶望は消え、歓喜が胸を覆う。頬を赤らめながら教室へ帰る。

 場所は図書室。授業が終わり昼休みに入った。入り口付近のがガラスケースには航空自衛隊の戦闘機が並んでいた。彼女と私はそれについて話していた。特に盛り上がりはないが彼女と二人で過ごせる時間が愛おしかった。このまま時が止まってしまえばいいのに、そう思った。

「ねえ、恋の芽生えって美しいと思う?」

彼女がガラスに反射する私を見ながら問いかけた。私は話題の深さに戸惑いつつ、ガラスを見たままの彼女の墨のような瞳を見てこたえた。

「美しいに決まっている。私が君に恋をしなかったらこんなにも幸せな時を過ごせていないだろう。」

自分の言葉に恥ずかしくなるが、本心だ。彼女は微笑んだ。安心した私は、彼女の瞳を見ようと、ガラスへと視線を運んだ。私は唖然とした。彼女の頬に水が流れている、涙だ。さらに右頬には薄い痣がある。彼女の方を向き、表情を確かめる。涙など流れておらず、頬に痣などない。ただ微笑んでいた。私に恐怖と不安が襲ってくる。ガラスの中の彼女は泣き、目から直接見える彼女は微笑んでいる。

(なぜだ、私の回答が気に入らなかったのか、)

他の原因を探るが思い当たることはそれしか無い。すると彼女が話し出した。

「そう思ってもらえて嬉しいよ。私は君の愛を受け取った代償として他の愛を失ったよ。」

二つの表情は変わらない。私はただ聞くことしかできない、彼女は続けて言う。

「姉の愛を失ったよ。」

私にはまだ理解できない。どうして代償として姉の愛を失ったのか。考える暇もなく私は背後から肩を叩かれた。

驚き振り返ると友人である女子生徒がいた。

「彼女さん、借りていいかな、」

友人は彼女を冷たく見ていた。私が返事をする前に友人は彼女の手を引っ張り、図書室の外へと連れて行った。高鳴る心臓音が耳を震わせる。私は彼女の言葉の意味を理解しようとした。いや、本当はもう理解できている。それを信じたくないだけで、明確な解はもう出ているんだ。

(パチン、)

外から高い音がして、私はようやく動くことができた。慌てて図書室を出る。

 場所は図書室入り口付近の階段。私は聞き耳を立ててしゃがんでいる。階段の四段目あたりに彼女がいる。その一段上にも女が二人いる。一人は友人でもう一人は私の位置からははっきりとは見えない。だが会話は聞き取れる。

「痛いよ、体も心も。」

彼女の声がする、苦しんでいる。しかし私は微動だにしない、行動できない。私の中に先の大胆さはもう消えていた。パチンと、またパチンと、何が起こっているかは理解しているが、私は何もしなかった。口だけ達者な私は何もできなかった。恋した相手を前にしても。行動した後の空気の怖さに怯えてただ見るだけだった。

「あなたを愛していたわ、家族として。でももうそれはない。愛は憎しみへと変わったわ。」

ここでもう一人の女が私に思いを寄せている、そして彼女の姉だと理解した。私の解は合っていたのだ。姉が続けて言う。

「彼の愛を獲るか、家族の愛を獲るか選びなさい。」

弱い私は彼女の返答をただ陰で聞くことしかできない。自分の思いは前者であると明確な意思を持っているにもかかわらずに彼女に全て押し付けてしまっている。

「私は家族の愛をとるよ。」

その答えに姉は微笑み、彼女を抱きしめた。彼女は無表情だ。私の心は無であり絶望でもある。助けに来ない私に失望したのだろうか。なんにせよ私は惨めだ。行動すら起こせなかった私を慰める者など私含め誰もいない。

私は涙も出なかった。ここを去る前にもう一度彼女を見たいと思い視線を向けた。姉は彼女を抱きしめているままだ。しかし彼女の表情に変わりはない。すると姉を勢いよく突き離した。その光景に私は唖然とし、姉と友人は驚きを隠せていない。彼女が微笑んだ、図書室での表情とは違う、覚悟を決めたような。

「私は家族の愛を獲ると言ったけど、あなたの愛を獲るとは言ってないわ。」

私含め三人は困惑し、理解できていない。

「私は彼と家族になりたい。そして彼の愛を受けたいの。だから私の家族は彼のことなの。」

(あゝ、私は愚かだ。)彼女の言葉は深く刺さった。選ばれたからだけではない。そのまっすぐな行動が私を奮い立たせる。周りの空気を気にし、自分の意思を殺している私は愚かだ。だからここから本当の私を始めたい。何にも囚われずまっすぐな心を持つ彼女のように、私も、、。そして彼女の愛を受け止め応えたい。そう思うと、私は動き出せた。


 場所は図書室入り口付近の階段。私は、彼女の小さく温かい手を握っている。過去に後悔して、いつまでも自分を殺し、周りに同調する人生を送りたくない。そして何よりも彼女と愛を分かち合い、一生一緒にいたい。

だから私は行動する、そして宣言する。

『私はもう逃げません。』

彼女の瞳を見る。


「日和、君の愛を私にください。」


美しい彼女は微笑み頷く。そして言う。

「やっぱり、恋って美しいね。」


私と彼女の唇が重なった。




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