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天文台の聖女、忘却のフラッシュフォワード(挿絵あり)
夢を見た。
その街は、遠くない未来に破滅する。
聖女はそれを見たが、なにも感じなかった。
――それが運命の選ぶ最善なら、と。
作家を殺し、星図は完璧へと還った。
未来はどんどん鮮明になっていく。
けれど、見た未来は「指針」ではなかった。
それはすでに「行動と結果そのもの」だった。
人の心を失った聖女の未来は、常に正しかった。
街にとって、最善の結果をもたらし続けた。
少なくとも、そう信じる人々にとっては。
――他の未来は、考えない。
人の心を無視した政治は、多くを殺した。
人々もまた、その犠牲を当然と受け入れた。
聖女は予言どおりにナイフを手に取る。
淡々と首にあてがい、自らを切り裂いた。
床に倒れ、目前に赤黒い池が広がる。
その血に映る星空。
ひときわ強く輝く北極星。
聖女は満足げに目を閉じた。
池に混じった一粒の涙を知らぬまま。
――もし、何かが違えば。
皆で大団円を迎え、笑い合えたのかもしれない。
これは、俺が救うべきバッドエンド。
書き換えなくてはならない結末だ。
一章、天文台の聖女、開幕