巡る縁と珈琲
「お前らに残念なお知らせがある」
そう先生が言うと騒がしかった教室がしんと静まり返った。皆が先生を見つめている。数瞬の後にその言葉が静寂を破った。
「次の試験で赤点だった者は、修学旅行に行けなくなる」
「補習と修学旅行の日程を被せるとか有り得ねぇ!」
俺たちはそう騒ぐ奴を横見に、周りには田んぼしかない帰路を辿っていた。地元が同じ俺たち四人組にとって、修学旅行は正しく旅そのものだ。それを楽しみに高校生していると言っても過言でない。
「俺たちはこのために高校生してると言っても過言ではないのになー」
そうかもな、そう相槌をうちながら同じことを考えていた事にドキッとする。ちなみに最初に騒いだやつは安藤、俺の心を読んだのは岡田、
「赤点取らなきゃいい話だろ?勉強すりゃいけるべ」
この舐めたことを言ってるのは流川だ。
「でも結局そーゆーことだよね。試験っていつ?」
「1週間後だろ?そんなことも知らん奴が赤点回避出来る訳ないな!」
安藤と岡田が取っ組みあってる横で真剣に俺は悩んだ。どうすれば赤点回避を達成できるのか、と。結局流川の提案で図書館に行って勉強することになった。
田舎の図書館には意外と人がいる。特にテスト前はこんなに人がいるのかってくらい人がいる。図書館で勉強なんてしたことのなかった俺たちには知らなくて当然だが。
結局、二時間後に玄関で待ち合わせるようにして、それぞれ別れて勉強することにした。今しなければこの先しないと確信を持っていたからだ。勉強しよう、席についてそう思った瞬間だった。ふと隣の人を見てしまった。陳腐な表現かもだが、俺の中に衝撃が走った。
別れてからおおよそ二時間後、俺は席を立てずにいた。隣の女性が可愛すぎるからだ。はたから見たら不審者だっただろう。いや、どう考えても不審者だ。ずっと目を奪われていた。何気ない瞬き、呼吸、表情、全てが可愛く思えた。
「ど、どうしました?」
ビクッっと俺の体は驚きを示した。当然だ。
話しかけられるなんて想像もしていなかっのだがら。だが逆に彼女からしたら当然の行動だろう。何せずっと見られているのだから。さて、なんと答えるべきなのだろう。そう考える俺の頭とちぐはぐな動きをとるこの口は「勉強、教えてくれませんか?」
などということを口走った。やってしまった。そう思った時には遅かった。しかしなんと訂正していいのやら。
「えっと、、その、分からない問題があるんですか?」
「こ、この問題です」
ドキドキして仕方なかった。たがこの胸の高鳴りは少しずつ消えてゆく。
「あー、この問題は...」
その理由は教えるのがあまりにうまかったからだ。
「あ、分かりました。教えるのめっちゃうまいですね」
心の底から出た言葉だった。彼女は恥ずかしそうに照れていた。
「もし良ければ、これ私のメアドです」
そういうと凄まじいスピードでこの場を後にした。
「この時代にメアドて...」なんてことは言えるはずもなく、ただ喜びを噛み締めていた。
「はまちゃん遅い!」
はまちゃんってのは俺のあだ名だ。
「楽しくなってな」
それから毎日図書館に通った。そしてその度彼女とあった。柊さんというらしい。いつもコーヒーを飲んでて、大学生らしい。ほんの少し帰り際にする雑談で得た貴重な情報だ。そしてその柊さんからまさかの連絡が来た。
「今週の日曜日、カフェで一緒に勉強しませんか?」
ありえないスピードで俺は承諾した。
俺のドキドキはまたしても儚く散っていった。人生で一番勉強した日となったからだ。その日の雑談は少し内容がいつもと違った。理由は俺の話をしたからだ。修学旅行が主な話題だった。どこに行くのか、何をするのか。そんなくだらないことで盛り上がった。自然な流れで帰る流れになった時、その流れを遮るように柊さんは言った。
「もし次があるなら、お土産を頼んでもいいいかな?私も遠出するから、お土産交換ね」その言葉を聞いて、絶対に赤点を回避しようと思った。
結果として、俺の試験は過去一番の成功を収めた。一人も欠けることなく、俺たちは修学旅行に行くことがかなった。しかし、俺の楽しみはその先にあるお土産交換になっていた。お土産は決めてある。コーヒーだ。知識は無いが、この田舎では買えないようなコーヒーの豆を買いたい。そう考えた俺は自由時間のほとんどを使ってコーヒー豆を探し、買った。もちろん柊さんを喜ばせるためだ。
修学旅行から帰ってきた俺はすぐに図書館に向かった。が、柊さんはいなかった。連絡もつかない。たまたまいないだけだろう、そう考えて日を変えたが、柊さんとは会えていない。
柊さんに会えずとも、俺は図書館に通うようになっていた。会えないのは仕方ないので自分で使いながら。美味しく感じるのに時間がかかったが、今では案外美味しく感じる。大学生になったのだから当然なのかもな。柊さんを思い出しながらコーヒーを飲んで一息ついていた。そんなことを思い出したのは隣の席から視線を感じるからだろうか。そうして思い出すように言ってみる。
「えっと、どうかしました?」