武器製作を開始します!
生産チートです!
金床に置かれた赤熱の鉄を、ハンマーで打つ。
イメージするのは、騎士団でも採用されているロングソード。
カン。カン。カン――。
音が気持ちいいくらいに響いて、手のひらに振動が心地よく伝わって来る。
燃える炉、迸る魔力、鉄の匂い。現実にしか感じられない、手ごたえだ。
問題は、目の前にある。ロングソードだ。
……まだ三回しか打ってないんだが。
取得 鍛冶Lv:2
取得 道具作成Lv:1
取得 金属加工Lv:1
取得 魔力付与Lv:1
確かにゲームでは時間経過がなかったけれども。
試しに鉄鉱石を取り出してそのまま打ってみる。
カン。カン。カン――。
目の前には完成されたロングソード。
取得 鍛冶Lv:3
取得 道具作成Lv:2
取得 金属加工Lv:2
取得 魔力付与Lv:2
「お兄様、これ……次の鉄鉱石です!」
「……ありがとう。リリス助かるよ」
リリスが、素材倉庫から、鉄鉱石を小さなかごに入れて持ってきている。
ワンピースの裾を結んで、動きやすい恰好をしているらしい。
本人なりの作業モードなのだろうか?
そして、目を輝かしているけど、これは普通の鍛冶じゃないと思うんだ。
現に管理人さんは目をひん剝いてこの鍛冶を見ている。
まあいいか。ゲーム仕様だというのならとことん利用してやればいい。
「お兄様、一緒に赤くて綺麗な鉱石があったのですが。これは?」
「それはルビーだね。宝石は魔力の伝導率が高いんだ。武器にすると高性能な武器を造れるんだよ:
「それも作れるようになるんですか?」
「うん。でも順番もあるからね。まずはロングソードを作っていこう。それはそうと……リリス、相槌を打ってごらん」
俺は本格的な鍛冶を想定して、リリスに遠慮をしていた。
ゲーム仕様だというのなら、その遠慮は不要だということだ。
リリスにもハンマーを持たせて、俺が打った後にリリスの打ってもらう。
カン。カン。カン――。
完成したロングソード。
隣でリリスは疲れた様子だ。
疲労度が蓄積しているのだろう。リリスもプレイアブルキャラクターではないから、或いはチートがあるのでは?と推測していた。
しかし、この様子ではないらしい。
「リリス。今日の相槌はおしまいだ。また鉄鉱石を持ってきてくれるかい?」
「お兄様。まだできます!」
「ダメだよ。道は一日にしてならず。ゆっくりとまた明日ね」
なんともまあ、説得力のないことだ。
目の前でチートしているからリリスが焦るのもわかる。
でも、6歳からレベリングしていくのも、十分に脅威だと思うから我慢してくれ。
俺は再び、槌を振るう。
カン、カン。焦らず、でも止まらず。
取得 鍛冶Lv:15
取得 道具作成Lv:10
取得 金属加工Lv:13
取得 魔力付与Lv:9
「リリス。鉄鉱石はもういいから。銀鉱石を頼む」
「銀鉱石ですか?」
「ここの棚にある白い鉱石だよ」
「はい!」
カン。カン。カン――。
取得 鍛冶Lv:26
取得 道具作成Lv:16
取得 金属加工Lv:12
取得 魔力付与Lv:11
工房内にずらりとシルバーソードが並んでいる。
大分作ったな。せっかくだから騎士団の装備を更新するつもりで作っていこう。
次は金鉱石で作るゴージャスソードか。
リリスに頼んで金鉱石をどんどん持ってきてもらう。
カン。カン。カン――。
取得 鍛冶Lv:42
取得 道具作成Lv:30
取得 金属加工Lv:35
取得 魔力付与Lv:29
つくったゴージャスソードで工房があふれそうだ。
ここらへんで今日の鍛冶は終わるか。
「爺や。このシルバーソードとゴージャスソードは騎士団に配備してくれ。今のロングソードよりかは火力があるだろう」
「は……はい!坊ちゃま。その、ロングソードはどうしますか?」
「素材代には届かないだろうが。売ることにするよ」
「かしこまりました。手配しておきます」
さて、最後にルビーとエメラルド、プラチナを持ってくる。
これだけレベルアップしたんだ。
今の技量ならアレが打てるはずだ。
まずはプラチナと銀鉱石、エメラルドで。
カン。カン。カン――。
ウインドソードの完成だ。柄には銀を使い、エメラルドを剣の根元に埋め込んだ。
ゲーム時代、片手剣でこの剣を使っていた記憶が蘇ってくるな。
これで、自分の装備は完成。
今度はプラチナと銀鉱石、ルビーを使って鍛冶をする、
カン。カン。カン――。
一本の短剣が完成する。刃の根元にルビーを埋め込んだ。まるで炎が宿っているかのようにルビーが輝いている。
「リリス、これは君の護身用に」
「え……私に?」
「もちろん。戦うためじゃないけど……持っているだけでも安心だから」
リリスは恐る恐る短剣を受け取り、光を受けて反射する刃に目を見張る。
「…すごい。きれいです。お兄様が作ったんですよね」
「そうだよ」
「宝物にします」
その言葉だけで、今日の疲れが吹っ飛ぶ気がした。
その夕方。工房を出て、庭に出ると風が冷たかった。
空には、ほんの少し欠けた月。
隣には、今日一日を共に頑張った妹。
「リリス、今日はありがとう」
「私のほうこそ……お兄様といっしょに作れて、すごく楽しかったです」
「また、明日も頼んでいい?」
「はい!」
──この世界は、きっと優しくなんかない。
でも今は、こんな日常があってよかったと、心から思えた。
その夜。
夕食を終えたあと、リリスは疲れたのか早めに寝てしまった。
俺は屋敷のバルコニーに出て、月を見上げていた。空気は少し冷たく、夜風が心地よかった。
そこで、騎士のひとり──見張り役のラルフが、静かに近づいてきた。
「アッシュ様。遅い時間に申し訳ありません」
「何かあった?」
「……少し、気になる報せがありまして。村のほうから“魔物の異常行動”が観測されたと」
「異常行動?」
「はい。通常の縄張りを離れ、しかも群れをなして移動しているようです。しかも、明らかに魔力濃度が異常な個体が混ざっているとのことです」
それは、ただの魔物暴走ではない。何かしら外的操作の痕跡がある。
俺の頭に、今日作った武器が浮かんだ。
ただの訓練や趣味のためじゃない。これは、俺たちのための「準備」だったのかもしれない。
「お父様には?」
「すでに報告済みです。騎士団でも偵察と防衛を強化しております」
「ありがとう。気をつけて」
「……アッシュ様も。ご無事を」
騎士は静かに去っていった。
その場に立ち尽くしながら、俺は月を見上げた。
ほとんど満ちたその光の向こう側に、何かが潜んでいるような気がしてならなかった。
妹を守る。そのために強くなってきた。
でも、それだけじゃきっと足りない。
これからくる何かに向けて──俺は、もっと先へ進まなきゃいけない。
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作者が踊りながら続きを書きます。