エピローグ
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ここまで読んでくださった方ありがとうございます。
このような圧縮した終わりで本当に申し訳ございません。
この国の歴史において、マナ枯渇の時代は避けられぬ終末とされていた。
だが、それは来なかった。
それは、ある一人の少年が世界そのものと融合し、終焉の火種を押しとどめたからだ。
◇ ◇ ◇
「伝説……か」
リリス・ランデルは、王立魔法学術都市の演壇に立ち、子どもたちの前で講義を終えたあと、静かに肩を落とした。
「先生のお兄さんって、本当に世界樹になったの?」
「魔法より強かったって本当!?」
「剣で風を起こして、空を飛んだってお母さん言ってた!」
子どもたちの目は、きらきらと輝いていた。
リリスは小さく微笑む。
「本当よ。……でもね、あの人は特別な人だったんじゃないわ。
世界のすべてを、ただひとつの想いで斬り拓いただけ。大切な人を守るために」
「かっこいい……!」
「お兄さん、今どこにいるの?」
「……世界の、いちばん奥よ」
リリスはそっと窓の外――聖域となった“世界樹の聖根”を見つめる。
五年前、王国と帝国の大戦は終結した。
魔力によらぬ国家再建を条件に、帝国は撤退。
リリスは〈王国再興の象徴〉として、王直属の研究主任となり、マナに代わる新エネルギーの開発に尽力してきた。
それは、兄の背を追いかける日々でもあった。
あの夜。世界樹の核に触れた兄は、もう人ではなかった。
意識は確かに残っているが、時間すら超えた場所にいる。
「――でも、必ず迎えに行く」
誰に言うでもなく、呟いた。
ふと、腰のホルスターにある短剣──かつてアッシュが鍛えた炎の護剣が、微かに振動した。
「……アッシュ?」
次の瞬間、研究塔の警報が鳴る。
《世界樹聖域にて、空間魔力の圧縮反応を検出。……強制再起動信号――起動中》
学者たちが走り出す中、リリスは息を呑む。
そんなはずはない。あの場所は“永遠の眠り”の象徴だった。
でも、彼は言っていた。
「世界ごと、お前の道にしてやる」と。
世界が、マナを手放し、変わろうとしている今。
もしかして、アッシュは――その目を、再び開けようとしているのかもしれない。
◇ ◇ ◇
そして、その日。王都の空に、一陣の風が吹いた。
誰もいなかった世界樹の根元に、剣が一振り、突き刺さっていた。
それは、風をまとい、かすかに脈打っていた。
再び語られるだろう。
マナに抗い、文明の限界を越えた一人の兄と、彼の背を追った妹の物語が。
――それは、終わりではなく、新たな始まり。
『無限レベルアップの兄は、世界を救って伝説になった』という、ひとつの神話として。
……そして、リリスはもう一度、空を見上げて笑った。
「おかえりって、言わせてよね」
風が、優しく頬を撫でた。
本当にここまで読んでくださってありがとうございます。
悪役令嬢というのが最初のコンセプトだったのですが、全く添えずに申し訳ございません。
ダメダメな小説書きでよければ、懲りずに次回作を書いていますので読んでいただければ幸いです。
予定では、来週末、再来週末には掲載予定です。
次回作はラブコメ×SFで行こうと思います。